性犯罪の厳罰化などを盛り込んだ改正刑法が、2017年7月13日から施行されました。
内容を見て、「あれ?」と思ったのが、強姦致死罪の法定刑の上限が引き上げられていないという点です。強姦致死罪の刑の上限は「無期懲役」のままで、強盗致死罪の上限「死刑」よりも低いままなのです。
また、刑の下限を5年から6年に引き上げたとはいえ、強盗致死罪の「死刑又は無期懲役」とは比べものになりません。
厳罰化といいながら、物を強取して人を死に至らしめた場合よりも、人を強姦して死に至らしめた場合の方が罪は圧倒的に軽いままなのです。
最も大きな違いは、強盗致死罪の場合は公訴時効がないのに対し、強姦致死罪は30年で公訴時効になってしまいます。被害者遺族にとっては、このアンバランスは我慢し難いのではないでしょうか?
公訴時効の存在理由として、長年月による証拠の散逸、捜査コストの軽減、遺族の被害感情の緩和等が挙げられています。DNA鑑定技術の精緻化等により証拠の散逸や捜査コストが大幅に改善された今日、遺族の被害感情は強姦致死罪の方が大きいのではないでしょうか?
「殴った方は忘れても、殴られた方は決して忘れることはない」言われるように、被害者側の人権への配慮は従前に比べて着実に高まりつつあります。そのような時代の刑法改正で、このようなアンバランスが残ってしまったのが私は不思議でなりません。
唯一考えられる理由として、法定刑の「死刑」を増やすことに抵抗があったということでしょう。しかし、法定刑に「死刑」があることと、実際に「死刑」が宣告されて執行されるのとは全く意味合いが異なります。
強盗致死罪にとりわけ重い法定刑(「死刑又は無期懲役」)が定められたのは、かつて物が高価であった時代、強盗に際して被害者を死傷させることが多かったため、抑止力を高めることが目的だったと聞いたことがあります。
豊かな社会になり、粗暴犯の認知件数は劇的に減少しています。強盗致死を特別に抑止する必要があるのか、大いに疑問です。
施行されたばかりですが、今後悲惨な強姦致死事件が発生した時、今回の法改正の是非が問われるのは必至です。
個人的には、どうにも納得が行かない法改正であります。
編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年8月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。