就業規則を知らなかった従業員も懲戒解雇できる?!

写真は「弁護士法人アディーレ法律事務所」のHPより


埼玉県に本社がある、(株)ABC電器(仮名)は創業30周年を迎えた。主に、電子部品関連、OA機器関連、DOS/Vパーツ(HD、ケーブル等)を販売している。近年は、中古PCの売上げが堅調である。同社の人事部長から、次のような相談があったと仮定しよう。

まずは人事部長の相談内容を検証する

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当社では、7日以上続けて無断欠勤をした場合には、懲戒解雇にすると就業規則に明記しています。就業規則は入社時に配布し、人事部の入口に備え置いてあります。日頃から、勤務態度の悪い、A社員がが7日連続で無断欠勤をしたため、就業規則に則り、懲戒解雇に踏み切りました。多くの従業員は驚いていたようです。

「就業規則なんてあったんだ!」「厳しすぎないか!」という声もありましたが、就業規則には間違いなく明記されていることです。この懲戒解雇は有効ですよね。実は、A社員が外部のユニオンに駆け込んだようで、団体交渉の申入れがありました。ですが、懲戒解雇が有効なら恐れることはありません。要求を突っぱねようと思います。
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実は、人事労務の機能がぜい弱な中小企業では、このようなことが起こりやすい。私の知っているケースでは、生意気な社員を懲らしめるつもりで懲戒解雇したところ、逆に労働委員会に提訴されて、さらに訴訟を起こされたケースがある。解雇の意味をわかっていないのでこのようなことが起きる。会社は高い慰謝料を支払う羽目になる。

解雇は「普通解雇」「整理解雇」「懲戒解雇」の3つに分類される。解雇をする場合「客観的で合理的な理由がない」と解雇権の濫用となり解雇が無効となる。解雇のなかでも、「懲戒解雇」は労働者にとって死刑判決に等しい。理由は、その後のキャリア形成が極めて困難になるからである。よって、その行使には慎重さが求められる。

懲戒解雇は重責解雇(労働者の責めに帰すべき重大な理由による解雇)になる。履歴書にも「賞罰有り」(○年○月。~の理由により懲戒解雇)と記載しなければいけない。仮に優秀であったとしても、懲戒解雇をされた人材を採用する会社は少ないだろう。履歴書未記入でも離職票に「重責解雇」と記載される。ゆえに再就職は困難になる。

「離職票の内容を調べることはない」と主張する社労士がいるが、離職票は、雇用保険などの切り替えに必要になるので告知をしなくても判明する。運よく、その場をしのいだとしても、告知義務違反として経歴詐称で解雇理由に該当する。真実を知っていたら採用されなかった重大な秘匿になるからである。

では、冒頭の(株)ABC電器の件に戻りたい。A社員の懲戒解雇の是非を読者の皆さまにお聞きしたい。次ぎの2択から選んでもらいたい。
1.就業規則にも記載され配布されているのだから懲戒解雇は可能。
2.社会通念上、懲戒解雇に合理性があるとはいえないので無効。

弁護士の判断は次のようになるだろう。今回のケースでは、「懲戒解雇に合理性があるとはいえないので無効」。その理由は次ぎの2点によるものだ。
・就業規則が(全事業所の)全従業員に周知されていたとはいえない。
・懲戒規定の内容は合理的ではない。

懲戒解雇が有効になるためには、まず就業規則が全事業所の全従業員に周知されていることが必要である。この場合、「就業規則が事業所に所属する全従業員に周知されていない」と推測される。裁判所も同じようにみなせば、懲戒解雇は有効と認定されない可能性が高い。また、規定自体も不合理である。

就業規則の内容が適切ではないので、従業員に与える不利益が大きいと考えられる。仮に、就業規則が従業員に周知徹底されていた場合どうなるだろうか。これについては、規律違反の種類や程度、その他の事情に照らして、懲戒解雇という処分が妥当であるかが吟味される。ただし初回の処分が懲戒解雇というケースは稀である。

法律と士業を味方につけて会社を強固に

さて、今回は『弁護士が教える! 小さな会社の法律トラブル対応』(あさ出版)を紹介したい。著者は、過払い金請求のCMなどでおなじみの「弁護士法人アディーレ法律事務所」である。本記事では、わかりやすい労働問題の事例を取上げたが、中小企業で発生しやすい事案がテーマ毎にわかりやすく解説されている。

同事務所のHPを見て驚いたのは弁護士人数の多さだ。弁護士数は全国の法律事務所中第6位!スタッフ数は全国の法律事務所中第2位という陣容である。数年前までは、過払い金請求専門のローファームだと思っていたが、気が付いたら、日本でもトップクラスのローファームに様がわりしていた。

このような大規模ローファームが進出してきたら、社労士や他の士業の方は大変だろうなと勝手な推測をしながら本書を読ませてもらった。本書は中小企業向きに書かれているが、中小企業は法務機能が、ぜい弱であることが多い。法律と士業を味方につければ会社はより強固なものになるに違いない。なお本記事用に本書一部を引用し編纂した。

尾藤克之
コラムニスト

<第6回>アゴラ著者入門セミナーのご報告
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次回の著者セミナーは8月を予定。出版道場は11月を予定しております。
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