球場のビール売り子の時給は役員クラスと同じくらい?!

写真右が原/氏。神宮球場にて撮影。

産労総合研究所の「2015年 役員報酬の実態に関する調査」は、上場企業1500社と未上場企業から任意に抽出した1000社の計2500社を対象にした役員報酬の調査である。それによれば、会長:3693万円、社長:3476万円、副社長:2947万円、専務:2433万円、常務:1885万円、取締役:1556万円、であることが明らかになっている。

歩合制で1時間に1万円を稼ぐ

本記事は、役員報酬について論じるものではない。野球のある部分にフォーカスしたものになる。さて、毎日がうだるような暑さだが、しのげるいい場所があるのをご存知だろうか。野球好きで球場に行く機会が多い人はわかるはずだ。華やかに見える雰囲気、満面の笑顔、キビキビした対応。ビールの売り子は球場に彩りを与えている。

原/佳弘(以下、原/氏)は、研修会社を運営している。球場の売り子からエッセンスを抽出して、販売員トレーニングのコンテンツを開発したことが話題になったこともある。今回は、球場を彩る「売り子の実像」に迫ってみたい。まず、原/氏は、売り子に人気がある理由について歩合制であることを挙げている。

「売り子の報酬体系は、頑張った分だけもらえる、歩合制の給与システムです。一体、いくら稼いでいるのかご存知でしょうか?まず売るビールの量ですが、通常は、1日100杯前後、これが平均的なレベルだと考えてください。1日の報酬は、9000円前後。時給にすると、2000~3000円だと思います。」(原/氏)

「それが、トップクラスになると、1日300杯を販売します。すると3万円近く稼ぐことになります。時給であれば8000~9000円ですが、歩合のよい球場であれば1万円を超すでしょう。これは他の仕事と比較してみてください。自給1万円は、かなり良い報酬額と言えるのではないでしょうか。」(同)

それでは、ここでシミュレーションをしてみよう。月に、12日稼動(3連戦を月に4回、毎週金曜~日曜)の出勤であれば、平均的な売り子で月収11万円前後、トップクラスであれば、月収30万円を超す。ある会社が運営するアルバイト募集サイトを見ると、1万円クラスはチャットレディなどのバイトが目立つ。

銀座などのクラブでも、最初は自給5000円程度、新宿・渋谷なら2500~3000円程度。少々高給だと思ったバイトが、百貨店のレジ打ち(1500~2000円)、高級弁当の盛付け(1000円~1500円)、新薬の治験モニター(通院1万円、入院2万円/日)などがある。治験モニターは寝ているだけのバイトだがリスクを伴う。

「時給1万円と仮定すれば、大企業の役員クラスと同程度です。自給1万円×8時間(1日=8万円)、8万円×20日(1ヶ月=160万円)、160万円×12ヶ月(1年=1920万円)。産労総合研究所の調査結果に当てはめれば、常務と専務の中間ということになります。月収30万円と仮定するなら主任や係長クラスでしょうか。」(原/氏)

「これはあくまでも、例え話です。売り子の自給を大企業の役員にシミュレーションする意味はあまりないかも知れませんが、トップクラスの時給がかなりの水準になることのイメージが伝わればと思います。」(同)

トップクラスの常連客比率は4割

平均的なレベルで1日100杯前後、トップクラスは300杯を売上げることは説明した。NPBによれば、2017年(今年)の1試合平均時間は3時間13分(193分)である。193分で100杯だから、1杯の販売時間は116秒(1分56秒)になる。トップクラスは300杯だから、1杯の販売時間は38.6秒(約39秒)になる。

「注文を受けてビールを注いで終了ではありません。球場内でビールを注ぐには丁寧な作業が必要です。さらに、代金の授受や、お客様との適度な会話も必要とされます。このような短いスパンで連続して販売していくことは簡単ではありません。そこで、常連客の獲得が大きなポイントになってきます。」(原/氏)

「平均的な売り子の常連客比率は2割程度です。トップクラスは4割を超します。売り子には暗黙のテリトリーがあるので、新人は新規しなければいけません。常連客比率は売り子によって異なりますが、売り子の売上げは『常連客によって支えられている』と言っても過言ではないでしょう。」(同)

また、常連客を獲得するためのテクニックがあると、原/氏は力説する。これは、常連に接する売り子の様子をみればわかるようだ。自分をさりげなくアピールしつつ、ビールが無くなるタイミングを見計らって向かう。常連客にとって、売り子とのコミュニケーションも楽しみの一つと考えれば理解できる。

「重い樽を背負って階段昇り降りをしている姿、腕章などに付いている売上げランキング、このような姿に共感している人が多いので、『共感』は大きな要素といえます。こうなると、応援団に近いノリですね。『あの売り子を応援したい』『あの子から買いたい』という心理が働いていますから。」(原/氏)

球場に行く機会があったら彼女たちの仕事ぶりに注目してもらいたい。高額紙幣を両替して持参いただくこともお忘れなく。なお、個人的には、甲子園名物「かちわり氷」にも関心がある。夏の高校野球開催期間中のみの限定品だ。この「かちわり氷」も売り子が販売する。ぜひ、原/氏による実態調査を期待したい。

尾藤克之
コラムニスト

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