外国人利用客を効果的に取込むことで旅館は活性化する

尾藤 克之

写真は「山城屋」の正面風景。HPより。

大分県由布市湯布院町の湯平温泉をご存じだろうか。「湯布院町」と聞いて、あの「ゆふいん?」と思う人もいるだろう。「ゆふいん」は、町名としての「湯布院町」の中心部「由布院温泉」のことを指す。「湯平温泉」は、同じ湯布院町のなかにあるが、中心部から離れた山奥にある小さな温泉地になる。

湯平温泉にある、「山城屋」が今回の舞台になる。創業50年、部屋は9室というこぢんまりした旅館である。しかし、「山城屋」は世界最大の旅行口コミサイト「トリップアドバイザー」の、「日本の旅館部門 2017」で満足度全国3位、「外国人に人気の旅館2016」で10位にランクインしている。

外国人の利用客を効果的に取込む

衰退する温泉地において、高い評価を得ることは簡単ではない。まず、「山城屋」は利用客の8割弱が外国人という構成である。通常の旅館が2~3割とも言われているので高い比率であることが理解できる。韓国49.5%、香港14.0%、中国4.7%、台湾3.7%、シンガポール2.9%、タイ1.0%、とつづく。日本人は17.8%にすぎない。

外国人の利用客が多いことから、「山城屋」では各国に合わせたサービスを提供している。アジアの利用客であっても国によって生活習慣はかなり異なるからだ。たとえば、部屋の冷暖房の温度調整では、韓国の利用客は夏はかなり涼しく、冬はかなり暖かくすることを好む。また、ほぼ1年を通して「氷水」を飲む。

一方、香港、台湾、中国本土からの利用客は、全体的に「氷水」は飲まない。どちらかというと「お茶」「白湯」などを好む傾向にある。室温も極端な温度差を避ける傾向にある。食事に関しても、韓国の利用客には「味噌汁」に必ず大きめのスプーンを付けるとのことだ。スープ感覚で食べているためである。

食事のスタイルは、以前は部屋食にしていた。「山城屋」に限らず、旅館は部屋食が一般的である。落ち着いて食べることができるため、日本人に部屋食は好まれる。しかし、外国人のなかには、畳のような場所に座って食べる習慣がない国も少なくない。そのため、レストラン形式に変更している。

レストランは、仕切りのない畳の広間を利用することでレイアウト変更を容易にした。食事中はレストラン前でスリッパを脱ぐことから、利用客の名前を女将が手書きでスリッパの上に置いている。さらにレストランはスタッフにも副次的効果をもたらした。階段の昇り降りといった負荷を軽減することに一役買うことになる。

日本人にとってあたり前のものが好まれる

私たちにとってはありふれた光景も、外国人の目には新鮮に映ることを知らなければいけない。ここからは、「山城屋」代表、二宮謙児/氏のコメントもあわせて紹介したい。

「当館では冬の時期になると、『こたつ』を用意していました。こたつのある風景は日本人の私たちにはごく普通のことですが、外国人のお客さまをこたつの部屋にお通ししたときのリアクションが並々ならぬハイテンションで、驚かされます。畳の部屋自体も新鮮なようですが、こたつは見たことがない未知の世界のようでした。」(二宮氏)

「そう、『クレヨンしんちゃん』に出てくる秘密の隠れ家です。子どもの、赤いランドセルを見かけた外国人のお客さまが興味津々に目を輝かせていたこともありました。あとで聞いたところ、『ドラえもん』で見た小学生のカバンだったとのことでした。」(同)

他にも、外国人利用客のニーズに応えるために、メールでの問い合わせに4ヵ国語で対応している。さらには、旅館までのアクセスを動画にしてYouTubeにアップし、客室のテレビで観光案内をしている。1年前からの予約受付なども興味深い。たとえだが、Booking.comに掲載された旅館版といえばイメージがつくだろうか。

では、論より証拠「山城屋」のHPをご覧いただきたい。土日祝はかなり先まで予約できないことが確認できるはずだ。創業50年、衰退した温泉地にある普通の旅館、部屋は9室など、これらの平凡な要素をプラスに転化する発想。さらに、日本人に固執せずに外国人利用客を吸引するノウハウには一見の価値があるように思われる。

参考書籍
山奥の小さな旅館が連日外国人客で満室になる理由』(あさ出版)

尾藤克之
コラムニスト

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