10日の都知事定例会見における、小池百合子都知事の「AI発言」が波紋を呼んでいます。
小池都知事が決定した「豊洲・築地併存方針」について、検討記録が残っていないということが毎日新聞の情報公開請求で明らかになったが、情報公開という方針に反するのではないか、という質問に対して、小池都知事が発言しました。
【小池知事定例会見録】豊洲移転基本方針「AI、人工知能、つまり私が決めた」 – 産経ニュース
「情報というか、文書が不存在であると、それはAIだからです。(中略)最後の決めはどうかというと、人工知能です。人工知能というのは、つまり政策決定者である私が決めたということでございます。回想録に残すことはできるかと思っておりますが、その最後の決定ということについては、文章としては残しておりません『政策判断』という、一言で言えばそういうことでございます」
…?!?!?
これをお読みの皆様、この説明は、納得できるものでしょうか??
最近のディープ・ラーニングに基づくAIは、確かに、開発者にもそのアウトプットの根拠を説明することができません。例えばアルファ碁のアウトプットも、AI内部での膨大な試行錯誤の結果なので、着手の理由を説明することは開発者にも誰にもできませんし、AI自身も論理立ててそれを説明することができません。
しかし、政治がそれでいいのでしょうか?
政治は「意思のみ」ですべてが決定できる点で、市場経済や民間企業とは決定的に異なります。だからこそ「透明性」と「公平性」の確保が必須条件のはずであり、加計・森友問題が国政を揺るがしているのは、まさにこの「透明性」と「公平性」の欠如ゆえです。
これまでの都政と都議会を「ブラックボックス」だと言って批判し、都政の透明化を打ち出して当選した小池都知事ですが、この「AI発言」は、「自分の判断は誰にも説明できないブラックボックスである」と語っているに等しいのではないでしょうか。
選挙を経ていない都知事特別秘書により、都議会は完全に「ブラックボックスの追加装置」に
小池都知事はここのところ、都政の透明化方針に疑問を感じる行動を次々に取っています。
先の東京都議会議員選挙の際には、6/1に小池都知事が都民ファーストの会代表に就任し、都議選が終了した直後、7/3には都民ファーストの会代表を辞任。野田数・都知事特別秘書が代表に復帰しています。
小池氏、都民ファースト代表辞任 「知事に専念」 :日本経済新聞
小池都知事辞任・野田氏代表復帰は、都民ファーストの会の党規約に基づき、小池都知事と野田氏の2人のみによる臨時役員会で決定されたとのことです。
小池都知事のネームバリューで都民ファーストが都議会第一党となった途端に、小池都知事が代表を降りてしまうのでは、都民ファーストの候補に投票した有権者は完全においてけぼりです。
さらに問題なのは、この野田数代表は「選挙を経ていない」、すなわち民意の承認を得た根拠がどこにもないという点です。
民意の承認を得ていない代表により、民意で選出された都議会第一党がコントロールされています。
これはある種、制度の欠陥なのではないかとすら思います。
さらに野田数代表は、同時に都知事特別秘書でもあります。
つまり、いかに言い繕おうとも、今や都知事と都議会は完全に一体化したブラックボックスを形成しており、二元代表制はまったく機能していないことになります。
都議会が「ブラックボックスの追加装置」になってしまったことを示す事案も既に起こっています。
都民フ都議:50人無回答…憲法、安倍政権アンケートに – 毎日新聞
憲法改正と安倍政権に対する評価を都議会議員にアンケートしたところ、都民ファースト所属都議の50人が無回答だったとのことです。
これに対して、野田数代表は「どんな取材を受けるのか本部が把握することは、民間企業なら当然の対応」などと述べていますが、政治が民間企業とまったく異なるのは上述の通りです。
都議選において「野田数」と書いた有権者は、ただの一人もいません。
一人ひとりの候補者の名前を書いたのです。
であれば、有権者には、自らが投票した都議会議員の見解を求める権利があります。
さらに、都民ファーストと都議会公明党は、豊洲移転問題を検討する特別委員会の設置を否決しました。
都議会:豊洲移転「特別委」設置を否決 野党反発 – 毎日新聞
「豊洲移転・築地再開発」という小池都知事の新方針に対して、都議会への説明がまだ何もない以上、都議会での経緯の説明や、実現可能性について徹底討議する場は当然に必要だと考えます。
それを否決しては、情報公開・透明性のある都議会という、小池都知事と都民ファーストの会に対する有権者の期待に反するものではないのでしょうか。
この「AI都知事のブラックボックス体制」は、いまのところ、さほどの実害はないように見えます。
しかし、分権化と幾重ものチェック体制、そして民意の目によるブレーキは、これまでの幾多の政治の失敗から生まれ、蓄積されてきた仕組みなのです。
いまや東京都政からそれが完全に失われたということは、今後、ブラックボックスの中から、いかなるアウトプットが出てくるかわからないということです。
都議会民進党を始めとする、知事野党となった都議会会派の奮起に期待します。
中妻 穣太 東京都板橋区議会議員(民進党)
1971年仙台市生まれ。早稲田大学卒業後、家庭用ゲーム制作、ネットワークエンジニア、ITセキュリティエンジニア、携帯電話網エンジニア、ITコンサルティングなどに従事。2008年より、民主党衆議院議員・長妻昭事務所にて、ボランティアやアルバイトとして働き、2011年4月、板橋区議会議員選挙に初当選。現在2期目。
編集部より;この記事は、板橋区議会議員・中妻穣太氏のブログより2017年8月11日の記事を転載させていただきました。中妻氏に心より御礼いたします。