高井戸警察署の署員が、万引きが疑われた中学生に対して「高校に行けなくしてやる」「鑑別でも少年院でもぶちこむしかない」などと任意調べの間に発言し注意処分を受けた。高井戸署に警告を出した東京弁護士会のサイトに詳しい情報が載っている。
それでは署員は少年たちにどのように尋ねればよかったのだろうか。
ヒントが仲真紀子編著『子どもへの司法面接 考え方・進め方とトレーニング』(有斐閣)に書かれている。この本は、虐待や性被害の目撃者・当事者となってしまった子供から、子供の負担を最小限にするように配慮したうえで、正確な情報を引き出す方法論を提供する。
質問者に誘導されやすいとか、繰り返し同じ質問をすることで間違った記憶が生まれるといった問題が子供にはある。何度も聞くとトラウマが深くなる恐れもある。そこで、事象の発生からできる限り早い時期に、子供に自由に話させるのを原則とし、録音録画で記録する、福祉機関から司法関係者までが協力して一回で実施する「司法面接」が研究されてきた。仲氏はわが国に適した司法面接の開発と普及に長年携わってきた第一人者であって、この本には研究成果がわかりやすく書かれている。司法面接研修会で使う教科書として用いることも想定されている。
たとえば「パンを食べた」から「毎朝パンを食べる」に、さらに「今朝はお父さんと一緒にパンを食べ牛乳を飲んだ」というように、意味記憶からエピソード記憶へと子供の記憶能力は徐々に発達する。記憶を忘却したり、他の情報と干渉して別の記憶に変容したりするのは成人でも起きることだが、子供にはその傾向が強い。子供から正確に話を聞き出すために心得るべきこのような基礎知識から始まり、司法面接の具体的な手順までがこの本には書かれている。
この本が対象とするのは主に被害児だが、被疑少年への面接法も書かれている。最初から「やった」と決めつけられ話を聞いてくれない、周囲から孤立させられ見放されたという気持ちにさせられる、といった心理から冤罪につながる「自供」が生まれるという。
親を含め、子供に接せるすべての人に役立つ知識が書かれているのでお薦めしたい。もちろん、注意処分を受けた警察官にもぜひ勉強してもらいたい。