北朝鮮の暴挙は単独犯ではない

中村 仁

「火星-14」型の試験発射を指導する金正恩氏(朝鮮中央通信サイトより:編集部)

中国と一体化した代理実験か

北朝鮮が弾道ミサイル4発を発射し、米グアム島周辺の海上に着弾する作戦計画を発表しました。発射実験なのか、発射計画なのか、作戦計画なのか、メディアには様々な表現が登場しています。実験よりも計画、計画よりも作戦というほうが切迫感があります。北も表現をエスカレートさせて、核ミサイルを実戦に使うぞと、脅しをかけられます。

核実験はすでに5回も行い、弾道ミサイルの発射実験は今年だけですでに10回にのぼります。米国防総省は「弾道ミサイルの搭載可能な小型核弾頭の生産に成功し、保有弾頭は60発と推定される」と、しています。米本土を狙える大陸間弾道ミサイル(ICBM)は2回目の実験に7月、成功したと、北朝鮮が発表しています。

経済が疲弊し、多くの国民が飢えに苦しんでいるのを横目に、なぜこのように急速に核ミサイル開発を進めることできるのか謎です。「米政府の予想を上回る速度で開発が進展している」と日本の新聞は書いています。「なぜそんなことができるのか」の謎には踏み込んでいません。

「中国が経済的に支援しているから」が一般的な見方です。だから国際社会が中国に圧力をかけ、その中国北朝鮮に暴走するなと圧力をかけるという構図になっています。「米政権にとっての基本路線は、中国の協力を得て、北への制裁などで核を放棄させるというものだ」(日経新聞)が日本の平均的な見方でしょう。

中国の直接関与でしかありえない速度

そうなのでしょうか。私には中国が北の計画を直接支援しているに違いないと、思えてなりません。巨額の開発資金、核・ミサイル技術そのもの、中国技術者の派遣、北の技術者の受け入れ、人工衛星によるミサイル誘導技術など、直接供与している。さらにいえば、直接支援どころか、一体となって北の開発計画を推進していると、想像されます。

例えば、長距離ミサイルを目標に向けて、正確に着弾させるには、地球観測衛星による誘導が不可欠です。北は12年12月に、地球観測衛星「光明星」の打ち上げに成功したと、発表しました。問題はその性能で、軍事的に有用な解像度の画像を取得することは困難、さらに軌道到達後、運用に支障をきたし、通信電波も途絶えていると伝えられています。

米メディアには、「北の技術者が中国の衛星測位システムの操作、技術に関する研修を中国で受けている」という情報が流れています。さらに「ソ連崩壊後、失職したロシア、ウクライナなどの核専門家を北が確保した。パキスタンの核実験からも北は必要なデータを得てきたらしい」(日米同盟のリアリズム、小川和久著)という面もあるでしょう。

中国は北に困惑などしていない

北に核開発作戦計画をやらせると、米日韓の反応を確認できるし、迎撃態勢の能力を掌握できます。狂犬を放ち、米日韓に向けて吠えさせておくこと中国にとって損ではありません。中国が自分で核ミサイル実験をすると、米欧日から批判を受けます。北に実験をやらせておく形をとるのが得策なのです。実験データ、迎撃態勢のデータは中国に筒抜けでしょう。「北へのコントロールが効かなくなって、中国は困惑している」という解説こそ、中国にとって都合がいいのです。

この程度のことは政府レベルでは常識でしょう。それを口に出さないのはなぜかですね。「北の核ミサイル開発は中国と一体。代理実験か」と、日本政府が言った途端、「何をいうか。日本は暴言を吐く」と一笑にふされ、日中関係を悪化させる口実にされるでしょう。そういう説を唱えたメディアの現地特派員はビザの発給でいやがらせを受けるでしょう。

米国が「中国と北は一体で実験」といったらどうなるのでしょうか。偶発的に武力衝突が起きたら、米中戦争に発展しかねません。だからトランプ大統領は「世界がみたこともないような炎と怒りに直面する」といい、本当は中国向けに警告を発していると見ます。

本格的な戦争には発展しないとみます。北はあげたこぶしをどう収めるか。ありるのは、グアム島方面に発射はする。そのミサイルはかなり手前で落下する。もっとも戦争に偶発的は要素がつきものだし、北はなにしろ狂犬ですから、常識人の常識が通用するかどうかは分かりません。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2017年8月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。