読売新聞社説の主張は若者参画推進の邪魔をしたいのか

高橋 亮平

「18歳成人」は既に1年前から既定路線なのにこのタイミングで書く浅はかさ

8月12日の読売新聞に「18歳成人法案 選挙権年齢との一致が自然だ」と題して社説が書かれている。

社説の出だしが、「若い世代の社会参加を促す契機としたい。」となっているので、おそらく若者の社会参加の促進の追い風にするつもりで書いているのだろうが、完全に逆効果になる可能性すらある。この分野を長年やって来た立場からすると、「分からないなら書くな」「書くならもっと勉強してからにしろ」と言いたい程だ。

この読売新聞の社説では2行目に「上川法相が就任後の記者会見で、成人年齢を20歳から18歳に引き下げる民法改正を早期に実現する方針を示した。秋の臨時国会に改正案を提出する意向だ。」と書かれている。

先日から高橋亮平コラムでも『【自民党が進める若者参画】秋には「18歳成人」、2019年までに被選挙権年齢も引き下げ』、『16歳高校生が州知事選に立候補し全米で話題に、日本も2019年までに被選挙権年齢が引き下げられる』と18歳成人について書いて来た。

その際にも書いているが、「18歳成人」法案については、当初、今年1月から6月まで行われた通常国会に提出される予定だった。

それが共謀罪の優先など国会対応によって臨時国会への先延ばしとなっていたものであり、その決定のあった春からは臨時国会に出される事が既定路線となっている。

「お盆の最中でネタもないし、夏休みだから子どもの事でも書こうか」という思いだったのか、それにしても大臣就任会見があったから書くというのはいささか短絡的な印象がある。

一方で私自身もこのタイミングで書けと言われて書いているので、この事については強く言えないが、問題は、「にも関わらず内容は足を引っ張るものになっている」という事である。

短絡的な「若者の応援ポーズ」で「若者の社会参加推進」を邪魔するな

最も問題だと思うのが、「18歳成人法案 選挙権年齢との一致が自然だ」というタイトルだ。
おそらくこの論説員は、「18歳成人を実現するためにも応援しなければ」との思いで、「選挙権も18歳になったのだから成人年齢も18歳にすべき」との論理で追い風にしようとしたのだろう。

確かに「18歳成人」については未だに反対者も多い。与党内の国会議員の中にも反対は少なくない。
しかしだ、冒頭にも話をしたようにこの「18歳成人」は既に既定路線として、総務省と自民党が議論を積み重ねて準備して来たものであり、既に自民党だけでなく公明党も同意した形になっている。

その背景には2007年に成立した国民投票法の附則3条1項で「18歳成人」について触れられている点がある。

国民投票法はその後改正されこの文言の修正もあったが、その後の「18歳選挙権」の際の公職選挙法改正による附則第11条などでも触れられており、自民党内でも憲法改正のための国民投票法からの経緯もあり、既に既定路線として周知されている形になっている。

今回の法案では、「18歳成人」実施を優先するため、反対も多い酒、タバコ、ギャンブルなどは引き下げ項目から外される可能性が高く、その点でも反対はし難い状況になるのではないかと予想される。
一方で反対する可能性があるのは日弁連などで、社説でも指摘されている契約に関わる問題や、今後の少年法への波及の可能性から反対する可能性が高い。

その点からいうと国会内ではむしろリベラル勢力である民進党、社民党、共産党などが反対する可能性は若干あるが、法案成立という事だけを考えれば、成立する可能性は極めて高いと言える。
この点から考えても、このタイミングでこうしたコラムを書くことは、広く伝えることで「この法案を通すな」という勢力を作る事はあっても、応援には全くならない可能性すらある。

「18歳成人法案 選挙権年齢との一致が自然だ」は世界の流れにも逆行

中でも問題だと感じるのが「18歳成人法案 選挙権年齢との一致が自然だ」という主張である。
この論説員は全く認識がないようなので改めて説明するが、世界における「18歳選挙権」に向けての選挙権の年齢引き下げは、1970年代に行われた。

かつては若者政策と言えば青少年の健全育成や国際交流などであったが、若者自身が被る社会的な問題なども多くなり、実質的な若者政策への転換、さらに当事者として若者を参画させる必要性が言われる中で選挙権の引き下げも主流になった。

この背景には、徴兵制など若者自身に課せられる義務との兼ね合いもあったとも言われる。
こうした流れの中では、今回の読売新聞が書いているように選挙権年齢と成人年齢を合わせて18歳にした国も多く、現実として世界の9割近くの国が「18歳選挙権」を実施している中で7割以上の国が「18歳成人」にしているというのも事実である。

しかしこの数字の差からも見えるように選挙権を成人年齢よりも低く設定している国があるのもまた事実である。

3年前の2014年に『「世界で最も若者の声を聞かない国」の若者へ!世界では16歳が選挙する』というコラムを書いた。この中で紹介したように、世界では既に18歳から「16歳選挙権」へとさらに進んで来ている。

2007年にオーストリアが国政および地方選挙での選挙権を16歳へと引き下げたほか、ドイツ、ノルウェー、スイス、スコットランドでは特区や州・市町村で16歳への引き下げが行われており、スロバキアでは労働者に限定して16歳まで選挙権を保障、デンマーク、スウェーデン、イギリス等でも16歳への引き下げに向けた検討が行われている。

だが、こうした国々では、選挙権が16歳になっても、成人年齢を16歳にしようという議論は行われていない。つまり、むしろ世界の最先端は「未成年にも選挙権を保障していこう」という流れなのである。
筆者自身、学生時代の2000年から選挙権年齢引き下げの問題に携わり、15年かけて2015年には「18歳選挙権」実現に導いたという自負がある。

長くなるのでこの点については『学生の要求が15年かけて法改正に。「18歳選挙権」実現で何を変えようとしたのか』を見てもらえればと思うが、2001年の段階から我々は、選挙権は成人年齢というよりはむしろ教育に合わせて考えるべきであり、まずは実質的にほとんどの方が高校に通う中で高校3年生となる年齢である18歳に、そして段階的には義務教育終了年齢である16歳まで引き下げるべきだと主張している。

むしろ、成人になっても選挙に立候補できないという事にこそ問題があり、成人年齢に合わせるべきは被選挙権年齢だとも主張し続けて来た。
この被選挙権年齢引き下げについても先日コラムに書いたように自民党が2019年までの引き下げの方向で準備している形になった。

こうした点から考えてもらうと、「18歳選挙権」の実現は、2歳下がった事よりも、「未成年にも選挙権が与えられた」という事により大きな意味があった事が分かってもらえるのではないだろうか。

一時的には「18歳成人」が実現する事によって選挙権年齢と成人年齢が並ぶ可能性はあるが、それは早くても2021年の事である。

むしろ我々は、それまでに地方選挙権などから「16歳選挙権」も進めて行きたいと思っている。
読売新聞の論説員の方には、こうした世界の状況や国内の状況をしっかりとご理解いただいた上で、さらに「若者の味方だ」というのであれば、あらためて応援の社説を載せていただきたい。

資料
図表: 世界における18歳選挙権、16歳選挙権への動き

出展: 高橋亮平作成

図表: 日本における選挙権年齢・成人年齢等引き下げへの流れ

出展: 高橋亮平作成

図表: 選挙権年齢・成人年齢引き下げに向けた関係法令の表記

出展: 高橋亮平作成