人生は自分探しの旅

北尾 吉孝

松下幸之助さんの御著書『道をひらく』三部作の完結編、『思うまま』の中の一篇に「喜んで聞く」というのがあります。松下さん曰く「自分の欠点というものは、自分では気がつきにくいし、また気がついても進んでそれを改めることはなかなかむずかしい。しかし、他人から何べんも指摘され注意されるならば、その欠点に気づくし、それがだんだんと直ってくるのではないだろうか」ということです。

要は自分自身は、分かっているようで中々分からないものであり、自分自身を知ることは古代より人類共通のテーマになるのです。だからソクラテスは「汝自身を知れ」と言い、ゲーテは「人生は自分探しの旅だ」と言っています。あるいは真の自分自身を知ることを、儒教の世界では「自得」と言い、仏教の世界では「見性(けんしょう)」と言います。心の奥深くに潜む本当の自分自身、己を知るのは極めて難しいことなのです。

従って、自分のことは自分では中々知り得ないのですから、時に人から教えて貰わなければなりません。他人の指摘により、はっと気付かされることは意外に多くあるものです。此の世の中、自分のことはさて置いて人の粗捜しは上手い人は数多いるわけですが、彼等は上記した意味で貴重な存在だと私は思っています。彼等の言より「なるほど~」と気付いた点につき、己を改めるべきはどんどん改めて行けば良いでしょう。

天は我に、如何なる才や特質を与えて、如何なる使命を果たさせるべく、此の世に遣わしたのか?此の質問に答えるために、他人のダイレクトな指摘が役立つのです。但し、松下さんも言われる通り「もし、欠点を指摘されて腹を立てたり不機嫌(ふきげん)になったりするならば、人は陰で言うだけで、本人には直接注意してはくれないようになる」でしょう。

従って、誰かに何かをチクリと刺されても、怒るのでなく素直に聞き入れ自省する、といった姿勢が大事だと思います。そして、その指摘が全くナンセンスなものであったらば「これこれかくかくしかじかだから、之は完全に的外れだなぁ」と内心思って置けば良いのです。そうして自分を良き方向に築いて行けば良いのです。

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