【映画評】ベイビー・ドライバー

渡 まち子
Baby Driver (Music From The Motion Picture)

幼い時の事故の後遺症で、耳鳴りが激しい“ベイビー”は、完璧なプレイリストをセットしたiPodで音楽を聴くことで、なぜか驚異のドライビングテクニックを発揮する青年。犯罪組織から逃がし屋の仕事を請け負っているベイビーだったが、偶然出会ったデボラと運命的な恋に落ち、裏社会から足を洗うことを決意する。だがベイビーが組織から抜けることを許さないボスにデボラの存在を知られ、脅迫されたあげく危険な仕事を請け負うことになる…。

若き天才ドライバーの恋と活躍を描く犯罪アクション「ベイビー・ドライバー」。音楽を聴くと天才的なドライバーになるという現象の学術的根拠はさておき、今、映画好き、音楽好きの両方から大注目のエドガー・ライト監督の新作である本作は、実に楽しい快作だ。物語は単純で、裏稼業に身を置く青年が恋人のために“最後の仕事”を請け負うという、ありがちなもの。ボーイ・ミーツ・ガールもカーアクションも珍しいわけではないが、ベイビーという役名がぴったりのアンセル・エルゴートとリリー・ジェームズの好演と、劇中の音楽が誰もが知るヒットナンバーを使う“ジュークボックス・ミュージカル”風なので、いつしか観客は気持ちよくノセられてしまう。音楽センスには定評があるライト監督なので、選曲も物語に沿った的確なもので、実にノリがいい。

主人公の脇を、ケヴィン・スペイシーやジェイミー・フォックスら、オスカー俳優が、怪演に近いサポートでがっちり固めるという妙な豪華さも見逃せない。特にフォックス演じる犯罪者のイカレっぷり(と、その末路)は必見だ。ロマンティックでハートウォーミングなエピソードが随所に登場するので、ご都合主義な展開にも素直にうなずける。カーチェイス版「ラ・ラ・ランド」との評判だが、むしろ、iPod風味の「トゥルー・ロマンス」と評したい。コ難しいドラマやド派手なアメコミ映画に疲れたら、こんな楽しい作品で一息入れよう。サントラもおすすめだ。
【70点】
(原題「BABY DRIVER」)
(アメリカ/エドガー・ライト監督/アンセル・エルゴート、リリー・ジェームズ、ケヴィン・スペイシー、他)
(ロマンティック度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年8月19日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Facebookページから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。