民法は1000以上の条文があり、各種資格試験での鬼門となっているようです。そこで、今回は鬼門である民法の財産法の構造について書いてみようと思います。
まず、民法の構造に登場するのは「主体」と「客体」の2つだけです。
「主体」は自然人と法人の二種類で、いわゆる権利能力を持ったものを指します。未成年者や被後見人などの論点は「主体」の問題です。
「客体」は、有体物である「物」です。知財等は民法上の「客体」ではありません。
そこで、「主体」をAとBの二者として、「客体」を不動産Xとして登場させるだけで、民法(財産法)の大まかな構造をご説明します。AとBは同じ「主体」同士なので同列の横の関係です。それに対し、Xは「客体」なので「主体」の下にある縦の関係です。
具体的に考えてみましょう。
Aという「主体」がXという不動産を所有しているとすれば、Aの下にXが位置し、Aは所有権の「主体」、Xは所有権の「客体」ということになります。縦の関係は所有権だけではありません。占有権などもあります。この縦の関係を規定しているのが民法の「物件」「担保物件」という分野です。
つまり、客体である「物」に対して「主体」が持っている権利関係を規定したのが、「物件」や「担保物件」という分野なのです。
ですから、「客体」である不動産Xに対して、「主体」Aが所有権を持ち、別の「主体」Bが抵当権を持つということも往々にしてあることです。重要な事は、いずれの場合も「主体」と「客体」は縦の関係だということです。
次に、「主体」同士の関係、つまりAとBとの横の関係を規定しているのが、民法の「債権」という分野です。今般、改正法が成立したのはこの部分です。
債権の発生原因は、たった4種類しかありません。
「ウソー!」と思った方は、民法の目次の「第三編 債権」を確認してみて下さい。
「第二章 契約」「第三章 事務管理」「第四章 不当利得」「第五章 不法行為」だけしかないでしょう。
この4種類のうち、実社会での債権の発生原因のほとんどは契約です。交通事故や名誉毀損のように、不法行為もままありますが、事務管理や不当利得は極めて少数です。「主体」であるBが、同じ「主体」であるAにお金を貸すと、AB間に「金銭消費貸借契約」が成立します。
返してもらえるかどうか不安なBが、Aの所有土地であるXに抵当権を設定すると、Bは「客体」Xに抵当権という担保物件を取得します。
ということで、AB間には「契約」という債権関係が発生し、AはXに所有権を、BはXに抵当権という「物件」を取得することになるのです。
「主体」がもっとたくさん登場しようが、「客体」が動産になろうが、この縦横の関係は全て同じです。債権の発生原因もたったの4つです。
民法をかじったことのある人にとっては、このシンプルな構造は容易にご理解いただけると思います。「イマイチ理解できない」という場合は、様々な事例を縦横関係で図示すれば得心いただけるはずです。
民法なんて初めて知った、という人にとっては何が何やらわからなかったかもしれません。
とりあえず、今般民法債権法の改正が成立したということで、民法(財産法)のシンプルな全体構造をご説明した次第です。
編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年8月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。