スペイン東部バルセロナのテロ事件は、逃走中のテロリスト、ユネス・アブーヤアクーブ容疑者(22)が21日、バルセロナ近郊で警察官に射殺され、事件の精神的指導者と見られてきた元イマーム(導師)、アブデルバキ・エスサティ容疑者は16日のアルカナー市で起きた住居爆発事故で死亡していたことが判明したことから、警察当局の捜査は一応終わり、今後はテログループの全容解明が進められる。バルセロナのテロ事件では15人が死亡、120人以上が負傷、テロ実行犯8人の死亡が確認されている。イスラム過激テロ組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を出している。
ところで、17日のバルセロナのテロ事件後、スペイン全土でイスラム排斥、憎悪が拡大し、これまで少なくとも4件のモスク(イスラム礼拝所)が破壊されたり、モロッコ出身の青年が路上で襲撃されるといった事件が起きている。スペイン日刊紙エル・パイスは23日、「わが国で目下、イスラム憎悪に基づく蛮行が広がっている」と警告を発している
エル・パイス紙によると、モスクが破壊されたり、傷つけられた所は南部グラナダ, マドリード州のフエンラブラダ市、北部ログローニョ市 そして アンダルシア州の州都セビリアの4都市だ。
セビリア市のモスクの壁には何者かが「殺人者たちよ、お前たちは代償を払わなければならない」、「ストップ、イスラム」との落書きが見つかったという。グラナダ市では、極右グループ(Hogar Sochia)のメンバーたちが発煙弾や照明弾を投げ、反イスラム主義を叫びながら暴れたという。
インターネット上でもイスラム教徒が攻撃の的になっている。路上で全く見知らぬ人から「アラブの馬鹿野郎」、「殺してやるぞ」といった中傷や脅迫を受けたイスラム教徒が少なくないというのだ。
それに対し フランス通信(AFP)によると、グラナダで23日、イスラム教徒200人がデモを行い、社会に広がる反イスラム憎悪犯罪に抗議したという。
イスラム過激テロ事件が発生する度に、イスラム教関係者は「イスラム教とテロはまったく相反する。イスラム過激派の聖戦思想は真のイスラム教ではない」と弁明してきた。実際、大多数のイスラム教徒は過激派テロとは無縁だ。ただし、「あれはイスラム教ではない」という抗議は欧米キリスト教社会ではあまり理解されていない。なぜなら、世界で起きているテロの大多数がイスラム教と何らかの関係を有しているからだ。その事実の前に、敬虔なイスラム教徒の抗議は無力なのだ。
オーストリアでは300人のイマームが6月14日、ウィ―ンのモスクに結集して「反テロ宣言」を公表するなど、イスラム教徒だけではなく、その指導者たちが欧州キリスト教社会で席巻する反イスラム主義に危機感を高めている(「イスラム指導者「反テロ宣言」の概要」2017年6月16日参考)。
今後は宗教指導者たちの一方的な宣言や表明だけではなく、キリスト信者や他の宗派間の地に足の着いた対話が不可欠だろう。単にアリバイ的な超教派活動ではなく、政治家、有識者たちを交え、政治、経済、社会、文化など多方面から「イスラム教のテロ問題」について真摯な討論が求められる。
参考までに言及するが、「宗教」は本来、人間を幸福にし、人生を真摯に生きていくための手助けをするものだ。人を殺し、憎しみを植え付けるような「宗教」はもはや宗教ではない。この極めてシンプルな原点に返るべきだろう。フェイク・ニュースだけではなく、宗教の名を利用したフェイク・宗教を追放すべきだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年8月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。