北は日米韓の「弱点」を知っている

長谷川 良

北朝鮮は29日午前5時58分、中距離弾道ミサイル1発を発射。ミサイルは北海道上空を通過して太平洋に落下したという。飛行距離は約2700キロで最高高度約550キロと推定されている。北のミサイルが日本領空を通過したことを深刻に受け止め、日本は米韓と連絡を取り、対北への制裁強化など、その対策を協議中だ。

▲座禅する安倍首相(安倍首相のツイッターから)

▲座禅する安倍首相(安倍首相のツイッターから)

日本の北情報筋は、「金正恩氏は同国のミサイルがグアム島を攻撃できる能力を保持していることを誇示する一方、日本に対してはいつでも攻撃できることを示し、対北制裁を強化する日本に警告を発した」と分析している。21日から米韓軍事演習が実施中であることから、北側が軍事力を示す狙いもあったことは間違いない。

安倍晋三首相は米国、韓国と協議し、国連安保理を招集して対北制裁の強化などを協議する考えだが、国連の安保理決議をこれまで何度も無視してきた北側に新たな決議を採択したとしてもどれだけの効果があるだろうか。正直にいえば、国連安保理決議では北の核・ミサイル開発を止められない。

それでは北の蛮行を無視し、看過できるかといえば、できない。隣国の独裁国家が核とミサイルを保持し、いつでも攻撃できるということは、日本、韓国にとって最高度の脅威だ。もはや「平和憲法」云々を叫んでいる時ではない。もちろん、パニックに陥ることはない。必要なことは冷静な現実認識だ。

それではどうすればいいか。2通りのシナリオが考えられる。非軍事的対応としては、中国が対北原油輸出を完全にストップすることだ。そして中国がその制裁を実施しなければ、中国も北の共犯であることを国際社会の舞台で糾弾すべきだ。必要ならば、対中制裁を実施すべきだ。一方、軍事的対応としては、日本は米韓と連携して、北への先制攻撃も視野に入れていることを内外に明らかにすべきだ。金正恩氏が潜伏している国内の全拠点をリストアップし、「われわれはいつでもその拠点に向かってミサイルを撃ち込める」という具体的な軍事プランを作成すべきだ。

核とミサイルが独裁国家堅持に不可欠と考えている金正恩氏に、日米韓の「力」を正しく理解させる必要がある。同時に、在韓6万人の邦人と数万人の在韓米国人の避難計画を一部実行に移すべきだ。それを通じて、日米韓3国が軍事行動に踏み切る時が近いことを北側は知るだろう。

準備が整えば、次は国連安保理で国連憲章に基づいて対北軍事制裁に関する決議案を提出すべきだ。もちろん、拒否権を有する中国とロシアが反対するだろう。その時、日米韓は世界に向かって「中国とロシアが北問題の解決を妨害している。北の核計画、ミサイル開発が推進した背後には、この2カ国が直接的、間接的に支援してきた事実がある」と明確に説明すべきだ。

問題は、人の命は地球より重い、といった人道主義的人間観が強い日本だ。「平和憲法」がこれまで維持されてきた主因はその人道主義的人間観を掲げて快眠できたからだ。血を流さず、犠牲をなくしたい、この思いに誰も強く反対できないからだ。
一方、北では国民の命は決して重くない。政権に反対する国民は抹殺され、粛清される。問題は、金正恩氏が「われわれはそうだが、彼らは違う」ことを知っていることだ。だから、金正恩氏は「彼らは先制攻撃できない」という絶対的信仰を有しているのだ。誰が金正恩氏のこの絶対信仰を揺るがすことができるだろうか。

朝鮮半島の問題解決には従来のやり方はもはや通用しない。対話、外交を通じて解決するのをプランAとすれば、それに代わって「力」で相手を説得させるプランBを引き出しから取り出すべきかもしれない。プランAは時間がかかるうえ、時間は北側に有利だ。最終的には、北の核保有を認知することにもなってしまうだけだ。

ひょっとしたら、国際社会は、犠牲を出してまで北の核・ミサイル問題を解決しなくてもいいと考えるかもしれない。小国家の独裁国家の北が初歩的な核や弾道ミサイルを開発してもパニックに陥ることはなく、国際社会は対北制裁を継続していけばいいと判断するかもしれない。アメリカ本土には影響がない情勢で、米国内にそのような声が高まってくることが十分予想される。

ただし、プランAは短期的には犠牲を避けることが出来るが、長期的には、核保有国の北朝鮮が出現し、韓国、日本を含むアジア全域の治安バランスが崩れ、核の拡大をもたらす危険が出てくる。それでもいい、というのならば、われわれはプランAを継続していく以外にない。その場合、誰もその結果には責任は取らないだろう。プランBの場合、責任問題が浮上することは避けられない。その責任を担う覚悟のない指導者はプランAを選択するだろう(いずれにしても、歴史家が後日、その選択を審判することになる)。

約2500万人の北の国民は独裁政権下で人質となり、その人権は常に蹂躙されてきた。一方、韓国には5000万人以上の同胞が住んでいる。プランAは前者の人権より、後者の人権をより重視する選択ともいえる。

最後に、読者と共に考えたい重いテーマを提示したい。「この世界には本当に人命より重いものはないのか」という問題だ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年8月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。