アイルランドのライアン航空が乗客の獲得にまた新たなオファーを提示した。8月に入って片道14.99ユーロ(1,949円)の最低料金を利用して往復30ユーロ(3900円)で旅行できるというオファーである。
ライアン航空の低額料金のオファーが止むことなく続くのは、今年の第一四半期の利益が3億9700万ユーロ(516億1000万円)を達成したことと、競争が激化する中で乗客利用率No.1のポジションを今後も維持して行くためである。
昨年同期と比較しても55%の伸びだという。正に、ライアン航空の好調さを示したものである。
上述の期間に同航空を利用した乗客は3500万人、それは前年同期と比べ12%の伸び、座席利用率は96%で昨年比2%の上昇。航空券の平均価格は昨年比1%上昇して40ユーロ(5200円)となっているという。
ライアン航空はヨーロッパでベース基地にしている86の空港から1800便が34か国、200の空港と繋がっている。年間の利用客は1億3000万人。利用客数でライアン航空はヨーロッパでナンバーワンの航空会社になっている。機種はボーイング737を400機備えている。それに新たに同機種が300機加わることになっているという。
ひとつの機種だけを飛ばすというのは、効率性から考え出されてたものである。仮に1機に問題が発生しても、同じ機種でそれに迅速に対応できるからである。また、部品の共有性も利用できるというメリットがある。
奇抜なアイディアを持ち込むのを得意とするライアン航空は垂直型のシートを設置して立ち席シートの導入を検討していた。1機当たりの座席数を増やすのが目的である。しかし、ヨーロッパではまだこのような座席の導入についての安全規定の問題や乗客の間でも抵抗があると判断したようで、ライアン航空ではこのプランの実行は見送ったようだ。
ライアン航空が著しく成長した要因は英国人の観光ブームを上手く利用して、安価でヨーロッパ大陸に旅行できるというのを提案して成長したのである。特に、ヨーロッパの中でも英国人が観光で訪問するのが最も多いスペインではライアン航空の成長は群を抜いていた。
導入当初はスペインでも地方の小さな空港をベースにした。その方が着陸料や停留料が安価であるからというのが理由であった。しかし、今ではスペインでも主要空港がライアン航空のフライトが増えることを望んでいる。同航空への利用客の多さが空港の運営にとって重要となっているからである。
スペインでライアン航空を利用する乗客は3500万人で、バレンシア空港の場合は昨年だと190万人が同航空を利用したそうだ。
ところが、英国がBrexitを選択したことによって、ライアン航空も英国を本拠地としての現状を維持するのか、それともヨーロッパ大陸を本拠地とするのか、2018年末までにその勇断が迫られているという。
7月24日にはCEOのマイケル・オレアリーが2018年の秋までに英国とEUの間で飛行する為の基本的な合意に至らない場合には、我々の本拠地の一部か、あるいは全てをヨーロッパ大陸の方に移さざるを得ないと述べたのである。
双方の間で合意に至る、至らないに関係なく、2019年4月から英国はEUから離脱することになっている。オレアリーが指摘しているのは、その為にも2018年の秋までに大枠の合意を結んでおく必要があるというのである。
ライアン航空が懸念しているのは、英国がEUと明確な合意に至る為のロードマップが存在しない状態が続けば、ライアン航空はEUの単一欧州空域(SES)を利用できなくなる可能性が出て来るということなのである。それは同航空にとって今後の発展を阻む致命的な問題に発展する可能性がある。
それを懸念して、ライバルのイージージェットは7月14日にEU圏のオーストリアにイージジェット・ヨーロッパを設立することを発表した。その為に、オーストリアの運航認可の取得の手続きも済ませているのである。
安価な料金で飛行することが絶対的な条件となっている格安航空にとって、仮にSESを利用して飛行できなくなると、それは燃費やフライト時間において他社の格安航空と競争できなくなる可能性さえ発生して来るのである。
英国のメイ首相のEUとの交渉において、保守党内でもまだ調整が必要とされているようで、しかも、メイ首相が今後も首相のポストを維持できるのかという疑問もある
英国政府が優柔不断をこのまま続ければ、ライアン航空もイージージェットと同様に、英国からヨーロッパ大陸に本拠地を移す可能性は十分にある。