北朝鮮が、今度は日本の上空を通過するミサイルを発射した。これと前後して掲載された三浦瑠麗氏のコラムが話題を呼んでいる。特に問題なのは、日本が「核攻撃能力」をもつことを推奨した部分だ。
強硬な動きと穏健な動きの両方が必要だ。強硬面では、北朝鮮周辺でアメリカが持つ軍事力の増強が必要だろう。北朝鮮の核施設やミサイル基地を狙った攻撃能力や、情報機関の格上げ、さらに日本と韓国が独自の核抑止力を持つことすら必要になるかもしれない。[…]
核攻撃能力は、日本と韓国が独自に抑止力を持つために必要だろう。さらに重要なことに、それによってアメリカから有意義な行動を引き出せる可能性もある。
日本が核武装すべきだというのは、新しい話ではない。日本は高い原子力技術と原爆6000発分のプルトニウムをもっているので、核弾頭だけなら1年で開発でき、ミサイルに搭載して配備するとしても、3年あれば技術的には可能だといわれる。
問題は、それが政治的に可能かどうかである。日本が軍事用のプルトニウムを保有すると日米原子力協定に違反する。1988年に締結されたこの協定は日本のプルトニウム保有の目的を「平和利用」に限定しているので、日本が核武装の意思を表明すると、30年の期限のくる来年、アメリカは協定の破棄を通告するだろう。
そして原子力協定は、非核保有国の日本が核拡散防止条約(NPT)の例外としてプルトニウムを保有することを認めているので、核武装するためには日本はNPTを脱退しなければならない。アメリカはもともと日本のプルトニウム保有にも反対していたので、核武装には強く反対するだろう。
それを押し切ってNPTを脱退すると、日米安保条約は破棄され、在日米軍基地も撤去されるだろう。日本は独力で核兵器を全国に配備しなければならない。そのコストは『コストを試算! 日米同盟解体』によれば、直接経費だけで年間4兆2000億円にのぼり、防衛費は80%以上増えるが、それでも今より安全にはならない。
つまり核武装は日米同盟の破棄と一体であり、技術的には可能だが、政治的には不可能なのだ。こんなことは「国際政治学者」に説明するまでもない常識だと思っていたが、そういう問題にも言及しないで気楽に核武装を提言するのは困ったものだ(写真はYahoo!ニュースより)。
追記:「ドイツのような核共有ならいい」という誤解もあるようだが、NATOに配備されているのは、ヨーロッパの地上戦で使う戦術核兵器である。日本が配備するのは海を隔てて飛ばす巡航ミサイルか戦略核兵器であり、アメリカの軍事的脅威になる。米軍の戦略核兵器はアメリカ西海岸のSLBMに搭載されているので、日本と「共有」することはありえない。くわしいことは『日米同盟のリアリズム』参照。