博士課程進学は失敗を裏付ける二つの調査結果

山田 肇

高学歴ワーキングプアーについて文部科学省の科学技術・学術政策研究所が最近二つの調査結果を相次いで公表した。

最初の報告書は『ポストドクター等の雇用・進路に関する調査-2015年度実績-速報版』。わが国におけるポストドクター等の延べ人数は15,910人で、うち日本国籍は11,465人であった。平均年齢は36.3歳だが、最も早ければ30歳前後で博士号を取得できるので、40歳を超えてもポストドクター等として雇用されている人がいる。彼らのうち前職がポストドクター等であった者が5,282人いる。

博士号を取得した研究者の多くは大学教員への道を期待するが、現実には、政府が提供する競争的資金によって推進される研究開発プロジェクトに時限を限って雇用されるポストドクター等のポジションにつくしかない。これは資金の切れ目が縁の切れ目となる不安定な雇用であり、研究者としてのキャリア形成は困難である。

第二の報告書は『「博士人材追跡調査」第2次報告書 速報版』。2015年度に博士課程を修了した人のわずか3%が、修了半年後までに民間企業に異動し、残りは大学等にとどまっている。2012年修了者に聞くと56%が「大学や研究機関で、研究者として安定的なポジションを得たい」と答えているが、歳を重ねてから博士号を取得した者ほど「研究以外の仕事をしたい、研究以外の仕事でもよい」「雇用先にはこだわらないが、研究経験が活かせる仕事に就きたい」「雇用先にはこだわらないが、研究者として働きたい」といった希望が増えていく。

非正規労働者の問題は頻繁に取り上げられているが、メディアがあまり扱わない博士号を取得した高学歴ワーキングプアーの状況は悲惨である。二つの調査は博士課程に進学するのは失敗ということを示している。

わが国の競争力を強化していくために高学歴ワーキングプアーを解消する施策が求められる。