券売機の前で外国人が悩んでいる姿をこのところ連日目撃する。東京の地下鉄は路線も料金も複雑すぎて、彼らには理解できないようだ。
公共交通が発達している欧州の多くの都市では公共交通の料金体系は単純である。中心駅から同心円状にゾーン1、ゾーン2、ゾーン3というように区域を分け、同一ゾーン内なら2ユーロ、隣接ゾーン間では3ユーロといった料金体系が普通である。そのうえ地下鉄・トラム・バスといった多様な公共交通も、1時間といった時間制限内で乗り換え自由になっている。
東京で地下鉄を乗りこなすには路線と地図の両方を理解する必要がある。それができないと浅草寺から大江戸博物館に回り、午後は銀座で買い物といった旅程がスムーズにこなせない。5分もかからずに歩いて移動できる虎ノ門駅から内幸町駅まで、東京メトロから都営地下鉄に乗り継いで移動して、時間と金を無駄にする事態も起きる。外国人観光客には東京の地下鉄は本当にむずかしい。
東京メトロと都営地下鉄を乗り継ぐと料金が跳ね上がるという問題もある。これは両地下鉄がともに初乗り料金を要求するからだ。6月に就任した東京メトロの山村社長は初乗り運賃の重複徴収をなくす料金通算化を検討したいと発言したが、都営地下鉄側の反応は芳しくないという。
猪瀬東京都知事時代に九段下駅で東京メトロと都営地下鉄との間のホームの壁(バカの壁)を撤去した。政治が要求してもこんなわずかにしか前進しないが現実だが、外国人観光客が困らないように東京オリンピック・パラリンピックまでには東京メトロと都営地下鉄の経営統合を達成してほしいものだ。経営統合しても路線の複雑さは解決できないが、料金の複雑さは軽減されるし、ゾーン料金制にすればもっと簡単になる。「おもてなし」の第一歩だ。
民間企業と競合する自治体事業の経営健全度を総務省が総点検するとの報道が流れている。国と東京都が株式を持つ東京メトロと都営地下鉄も、東京近郊の私鉄と比較していただきたい。これも経営統合への圧力になると期待する。