FRBの年内利上げに黄色信号

FRBのブレイナード理事は5日のニューヨークでの講演で、「物価上昇率が(2%の)目標達成に向けて軌道に乗っていると確信が持てるまで、追加利上げには慎重になるべきだ」と発言した。

これを受けてFRBによる年内の利上げ観測が後退し、地政学的リスクやハリケーンのイルマが勢力を強めていることも意識され、5日に米債は買い進まれて、10年債利回りは2.06%と1日の2.16%から大きく低下した。

格付け会社ムーディーズは米国がデフォルトに陥れば最上級の格付けを下げると表明したことも、リスク回避要因となっていた。米国債の格下げ観測で米債が買われるというのも興味深い。実際に2011年8月6日にS&Pが米国の長期格付けを最上位のAAAからAA+に1段階引き下げた際に米国債は売られるのではなくリスク回避の動きから買い進まれていた。

それはさておき、ブレイナード理事は市場を動揺させるほどのサプライズなものではない。7月10日にもブレイナード理事は、バランスシート縮小について早期に進めることを支持した上で、追加利上げについては慎重な姿勢を示していた。

元々ブレイナード理事はハト派とされ、利上げには慎重な姿勢を示すとみられていたことで違和感はない。ただし、このタイミングでの同じような発言が市場に多少なりインパクトを与えたのは、イエレン議長のこれまでの発言内容と足元物価の動向が影響していた。

イエレン議長は、ここ数か月の物価指標が著しく低水準にとどまっていることは、FRBも確認しているものの、それは一時的要因が物価昇を抑制しているとの認識であった。ところが、米商務省が8月31日発表した7月の個人消費支出(PCE)統計によると、FRBが利上げ判断で重視するPCEデフレーターは前年同月比1.4%上昇にとどまり、目標の2%に届いていなかった。

市場ではここにきての物価の低迷が一時的なものではないかもしれないとの見方も強めている。ジャクソンホールの講演でイエレン議長が金融政策に触れなかったことも、利上げについては慎重になっていたためではないかとの見方もできなくはない。

9月のFOMCでのバランスシート縮小の決定については、むしろない方がサプライズとなっている。しかし、12月の利上げについてはFRB内部でも、また市場の観測でもかなり不透明感が強まっていることは事実なのかもしれない。


編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2017年9月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。