非核三原則の「持ち込ませず」は嘘である(アーカイブ記事)

非核三原則の「核持ち込み」が話題になっているので、2017年9月11日の記事を再掲します。

NHKスペシャルという番組は過大評価されているが、つくっているのは半年ぐらい勉強した素人で、大部分は既知の情報である。きのう放送の「スクープ・ドキュメント 沖縄と核」も、昔は沖縄に核兵器があったとか、沖縄返還の密約で「有事の核持ち込み」が決まったとか、古い話ばかりだったようだ。

唯一の新情報らしきものは、スタッフが書いている1959年に那覇市で起こったという誤射事故だが、「もし(海に落ちないで)核爆発を起こしていたら、那覇の街が吹き飛んでいたでしょう」というのは誤りである。核弾頭は正確に起爆(implode)しないと核爆発しない。那覇市内に落ちても、ただの落下物である。

沖縄返還協定に「有事の持ち込み」の密約があった

こんな初歩的な間違いをおどろおどろしく語っているのだから、あとは推して知るべしだが、これを「スクープ」と思う人も多いようなので、周知の事実をおさらいしておこう。

沖縄は戦後アメリカの極東最大の軍事拠点となり、核兵器が陸上配備(最大1300発)されていた。1972年まで沖縄はアメリカの施政権下にあったので、これは日米安保条約で事前協議の対象となった「領海内への持ち込み」ではなかった。

佐藤内閣は沖縄を返還させるために、多大な努力を払った。戦争で奪った領土を平和的に返還した前例は歴史上ほとんどないが、アメリカは沖縄の戦略的な機能をそこなわないという条件で返還交渉に応じた。

最大の障害は「核抜き・本土並み」にしてほしいという日本側の要望だったが、これについて1969年11月の佐藤=ニクソン会談で、核持ち込みの密約が結ばれた。その議事録は民主党政権が公開したが、こう書かれている。

日本を含む極東諸国の防衛のため米国が負っている国際的義務を効果的に遂行するために、米国政府は、極めて重大な緊急事態が生じた際、日本政府との事前協議を経て、核兵器の沖縄への再持ち込みと、沖縄を通過させる権利を必要とするであろう。米国政府は、その場合に好意的な回答を期待する。

つまり「有事の核持ち込み」が沖縄返還の条件だったのである。この合意書は1993年に交渉を担当した若泉敬が著書『他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス』で明かしたものだから新情報ではなく、民主党政権で文書的な証拠も出ている。

今は「持ち込ませず」は無意味

この密約は日本政府が破棄していないので今も生きているが、米軍は今は沖縄に核を配備していない。核兵器の性能が上がり、戦術核兵器を沖縄に配備するよりICBMやSLBMなどの戦略核兵器をアメリカ領内に置くほうが効率が高いからだ。

だがこれはアメリカの都合である。中国との地上戦には沖縄に戦術核を配備したほうがいいかもしれないし、北朝鮮の脅威に即応するには戦略爆撃機に核ミサイルを搭載して、日本国内に配備したほうがいいかもしれない。抑止力を強めるには「日本国内に持ち込んでいる」と公表したほうがいい。

この密約には重要な含意がある:非核三原則の第3原則(持ち込ませず)は嘘だということである。アメリカ政府は「極めて重大な緊急事態が生じた際」には(事前協議の上で)核兵器の沖縄への再持ち込みができるのであり、日本政府は「持ち込ませない」という約束はしていない。日米同盟の目的は両国の安全を守ることであり、そのために必要なら核兵器という手段を排除する理由はない。

今後、朝鮮半島で「極めて重大な緊急事態」が生じるおそれは強いが、そのときになって事前協議しても間に合わない。日本の国防の根幹にかかわる問題が、こんな矛盾した密約になっているのは危険である。あらためて国会で非核三原則を審議し、第3原則を破棄する国会決議を出すべきだ(写真は密約文書 朝日新聞撮影)。