【映画評】あしたは最高のはじまり

南仏できままに暮らすプレイボーイのサミュエル。彼の前に、かつて関係を持った女性クリスティンが生後数ヶ月の娘グロリアを連れて突然現れる。グロリアが実の娘と聞きサミュエルが驚いている間にクリスティンは赤ん坊を置いていなくなってしまい、サミュエルはクリスティンを探しだすためロンドンへ。しかし英語ができない彼はクリスティンをみつけられず、異国で途方にくれているところを、偶然出会ったゲイの敏腕プロデューサー、ベルニーから助けられる。映画のスタントマンとして働き出したサミュエルは、グロリアとベルニーといつしか本当の家族のような絆で結ばれていった。だが8年がたったある日、突如クリスティンが彼らの前に現れる…。

遊び人のシングルファーザーが子育てに奮闘する姿を描くハートウォーミング・ストーリー「あしたは最高のはじまり」。大ヒット映画「最強のふたり」で一躍スターになり、今やハリウッド大作からもひっぱりだこの国際派スターとなったオマール・シーは、ちょっといいかげんだけど明るく前向きなキャラクターが本当に良く似合う。お気楽に過ごしていた遊び人が、突然父親になることで、責任ある大人に変わる成長物語は、ゲイの友人と共に“男手ふたつ”での子育てがユニークだ。風変わりな父娘の絆は強く、成長したグロリアとサミュエルは“最強の”相棒となる。

納得できないのは、母親クリスティンの行動だ。情緒不安定とはいえ、娘を押し付けたり奪ったりでは、あまりに自分勝手で、生みの母である彼女に共感しようがない。ストーリーには、ちょっとご都合主義の展開も。だが、それらすべてを吹っ飛ばしてくれるのが、オマール・シーのはじけるような笑顔と、グロリア役の新人子役グロリア・コルストンのこれまた輝く笑顔である。母親のことをずっと世界を飛び回る凄腕スパイと信じてきたグロリア。後半にはやるせない決断が、そして終盤には思いもよらない悲劇が待ち受ける。少々風変わりな父娘の生き方に、親も子も不完全なのが当たり前、一緒に成長していくものなのだと教えられた。本作の原案は、日本未公開のメキシコ映画で、世界5ヶ国でリメイクが決定しているそう。常識破りの子育てと魅力的な父娘の絆の物語は、国境を越えて人々を魅了したようだ。
【60点】
(原題「DEMAIN TOUT COMMENCE」)
(フランス/ユーゴ・ジェラン監督/オマール・シー、クレマンス・ポエジー、アントワーヌ・ベルトラン、他)
(相棒度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年9月13日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式ウェブサイトから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。