株式とリスクファイナンス

森本 紀行

金融は、普通は、企業に対する金融、即ちコーポレートファイナンスである。さて、資金を調達する企業には、資金使途、即ち目的、片仮名でいえばオブジェクトがある。現代の金融技法は、オブジェクトを独立させて金融の対象にするところへまで進化している。これがオブジェクトファイナンスだ。

株式の発行はコーポレートファイナンスの代表的手法である。さて、株式発行のオブジェクトは何か。一つには、長期的な設備投資資金の調達である。これなど、企業固有性の高い製造設備等は難しいのだが、一般性の高い商業用ビルディング、輸送施設、エネルギー関連施設等については、オブジェクトファイナンスの代表例として発展している。

株式発行には、もう一つの重要なオブジェクトとして、危険準備金の調達がある。さて、これをオブジェクトとするオブジェクトファイナンス、即ちリスクファイナンスは可能であろうか。ここには、オブジェクトファイナンスの一般理論が働くのであって、危険が一般性のあるものならば可能だが、企業固有のものならば不可能である。企業には、固有の危険があるからこそ、コーポレートファイナンスとしての株式発行があるのだ。

しかし、企業が負担する危険には、火災、海難、盗難、天災など一般性のあるものも多い。こういう危険に備えるときに、株式という形態で危険準備金をもつのは財務効率が悪い。そこで工夫されたのが保険である。保険こそ、リスクファイナンスの代表的手法である。ここでいう保険は、標準化された保険、より簡単にいえば、保険会社が提供する保険のことである。実は、保険会社は、リスクファイナンスの提供者として、金融機関なのである。

保険以外にも、リスクファイナンスの手法は考え得るわけで、それらは、保険に代替するものとして、オルタナティブリスクトランスファー、即ち代替的な手法によるリスク移転と呼ばれる。これも、現在では、独立した金融技法として構成されていて、特に、オルタナティブリスクトランスファーを使えば、企業固有性の高いリスクにも適用できる点が重要である。

理論的には、オルタナティブリスクトランスファーの高度化は、株式の存在意義を低下させていく。そのとき、株式の真の意味が問われるであろう。そもそも、株式とは何か。

 

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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