ドイツ連邦議会選(下院)は24日、投票日を迎える。複数の世論調査によれば、メルケル首相が率いる与党第1党「キリスト教民主同盟」(CDU)の第1党堅持はほぼ確実視されている一方、連立政権パートナー政党「社会民主党」(SPD)はメルケル首相の4選を阻むという当初の目標を早々と断念し、CDUとの差を可能な限り縮め、選挙後の政権工作に期待を寄せている(CDUとSPDの差は最大約15ポイント)。有権者の関心は「自由民主党」(FDP)、「左翼党」、右派新党「ドイツのための選択肢」(AfD)の第3党争いに集まってきた。
昨年11月の米大統領選や今年5月のフランス大統領選では“チェンジ”という言葉がモードだった。停滞する経済を刷新し、米国ファーストを掲げ新風を巻き起こすためにトランプ氏は「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン」と叫び、マクロン大統領は自身の政治運動「アン・マルシェ!」(En Marche!=進め!)を結成し、チェンジをキーワードに選挙戦に臨み、共に勝利したが、ドイツでは大多数の国民はチェンジより現状維持志向(キープ)が強い。
メルケル首相の口からはチェンジという言葉はほとんど出てこない。「国民経済は順調に伸びてきている。私が就任した直後、失業者は約500万人いたが、現在は250万人に半減した」と過去12年間の政権実績を誇示し、有権者に「私に任せれば、あなた方の現在の生活水準はキープできる」と諭しているわけだ。SPDのシュルツ党首は、「メルケル首相は眠り薬を与え国民に考えさせないようにしている」と嘆いているほどだ。
興味深い点は、メルケル首相だけではない、他の政党も選挙戦でチェンジを余り叫ばないことだ。国民は政治の大改革や政策の変化より、現状を維持し、生活の充実を最優先する政策を重視してきたからだ。
もちろん、難民政策ではAfDがメルケル首相の難民歓迎政策を批判し、100万人の難民の殺到で国内の治安が不安定となり、テロの危険性も高まってきたと訴え、一定の支持を集めているが、選挙戦の流れを変えるほどではない。なぜなら、メルケル首相自身が「国境の監視強化は続けていく」と主張し、経済難民などの殺到に対しては厳しい姿勢を鮮明化してきたからだ。
関心は選挙後の組閣工作だ。CDUはどの政党と連立政権を組むか、SPDと大連合を再び構築するか、FDPと「同盟90/緑の党」との3党でジャマイカ連合(党のカラーからジャマイカの国旗の色となる)を組むか、さまざまなシナリオが囁かれている。ただし、CDUはAfDと左翼党との連立は拒否している。それだけに、選挙後から政権発足まで案外、時間がかかるかもしれない。
ところで、選挙戦終盤で最も注目されているのは第3党争いだ。FDPの連邦議会カムバックは間違いない。リントナー党首は第3党になって選挙後の政権参加を視野に入れている。一方、AfDは党幹部たちの反ユダヤ主義的発言で一時、支持率を落としたが、ここにきて厳格な難民政策をアピールして有権者の支持獲得に腐心している、といった具合だ。
ドイツの世論調査では、AfDが11ポイントでやや先行し、左翼党とFDPが10ポイント、9ポイントで追っている。「同盟90/緑の党」は約8ポイントで後れを取っている。
欧州連合(EU)の盟主ドイツの総選挙だけに、他の欧州加盟国もその行方に関心を注いでいる。メルケル首相は「EUは目下、英国のEU離脱や難民対策など難問に直面している。EUのかじ取りを担うドイツには安定政権が必要だ」と述べている。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年9月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。