北のミサイルで被害者が出た場合

朝鮮中央通信は「金正恩同志が中長距離戦略弾道ロケット「火星-12」型発射訓練を再び指導」と報道(同通信より引用:編集部)

北朝鮮が15日朝(現地時間)、今年14回目となる弾道ミサイルを発射した。ミサイルは北海道上空を通過し、太平洋上に落下した。国連安保保障理事会が新たに対北制裁決議を採決したことに対する北側の返答を意味すると受け取られている。

危機に直面する朝鮮半島(ウィキぺディアから)

日韓メディアの報道をまとめてみる。

北朝鮮は15日午前7時頃、同国西岸の首都平壌の順安付近から弾道ミサイル1発を発射した。ミサイルは北海道の上空を超え、襟裳岬東の沖合約2000kmの太平洋上に落下した。韓国側の情報では、最高高度約800km、飛距離約3700kmと推定、いずれも前回(8月29日)の550km、2700kmを上回っている。中距離弾道ミサイル「火星12」と見られている。

ちなみに、ミサイル発射地から米グアム島まで約3400kmだから、北側には、ミサイルがグアム島を射程距離内に収めていることを誇示する狙いがあったと見られる。

北朝鮮のアジア平和委員会は13日、国連安全保障理事会が対北制裁を採決したことを受け、国連の制裁決議を推進した日米韓の3国に対し 「米国を焦土化」し、「日本を核爆弾で海に沈め」、「韓国を米国の犬」と酷評する声明を発表したばかりだ。

安倍晋三首相は、「絶対に許されない。今こそ国際社会は団結して対応しなければならない」と厳しく北を糾弾している。当然だ。国連安保理決議を無視し、核実験、弾道ミサイルを繰り返す北朝鮮は単に朝鮮半島の安全問題というより、もはや世界の問題だ。

北の大陸間弾道ミサイル(ICBM)の射程距離内に入った欧州ではメルケル独首相やマクロン仏大統領は対北政策の見直しを行い、対北制裁の強化に乗り出す姿勢を示している。

幸い、北朝鮮の6回の核実験、今年に入って14回の弾道ミサイル発射でこれまで被害者は出ていない。もし1人でも日本人の漁業関係者や国民が北のミサイル発射の犠牲となった場合を考えてみてほしい。日本は黙認できないし、最高度の批判の声明を出すだけではもはや収まらなくなる。何らかの軍事的報酬を求める声が出てくるかもしれない。平和憲法を理由に冬眠してきた日本国民は厳しい選択を強いられることになる。

もし米国人の一人が犠牲となった場合はもっと深刻かもしれない。トランプ大統領はもはやツイッターで北を批判するだけではその怒りを収めることが出来なくなる。残されたチョイスは軍事報復しかなくなる。

戦争を始めるには多くの犠牲者はいらない。1人でも犠牲となった場合、その危険性は高まると見なければならない。第一次世界大戦は1914年6月28日、サラエボで一人のセルビア人青年がオーストリア・ハンガリー帝国の皇位継承者フランツ・フェルディナント大公を銃殺したサラエボ事件を契機に始まった。同じようなことが起きる危険性が朝鮮半島にも常にある。薄い氷の上でスケートする選手を思い浮かべてほしい。氷が突然壊れれば、スケーターは極寒の氷の中に沈む。朝鮮半島の状況はそれに似ている。何か想定外のことが起きれば、一挙に戦争が始まるかもしれない。

金正恩氏(朝鮮労働党委員長)は考えるべきだ。北の軍隊が発砲しない限り、戦争は始まらないと考えているとすれば、大きな間違いだ。同じことが、トランプ米大統領にもいえる。巡航ミサイルのトマホークを北に向かって発射しなくても、米朝間で戦争が起きるかもしれないのだ。

日米韓の指導者は冷静に事に当たってほしい。戦争のボタンを握っているのは金正恩氏でもトランプ大統領でもないかもしれないのだ。軍神のアレス(ギリシャ神話に登場)に主導権を奪われてはならない。安倍首相が強調したように、国際社会は今こそ、朝鮮半島の危機を打開するために団結しなければならない時だ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年9月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。