池内先生が9月15日のWSJ日本語版「サウジ皇太子、王位継承に向け、抵抗勢力を排除か」を読んで、FBで「大丈夫か」と短くコメントしていた先週の事件について、東京時間の今日(9月19日)午後1時ごろ、FTが”Saudi security forces clamp down on dissent” と題する記事を掲載していた。「政府は批判を封じるために、学者、聖職者たちを拘束した」(”Academics and clerics held as Riyadh acts to silence criticism” というサブタイトルが付いている。
他誌が報じていない事実が多数記載されており、非常に興味深い。
筆者は、特に「サウド家は何十年ものあいだ、イスラム主義者と複雑な関係を持ってきた」という箇所が気になった。長い本文を、筆者の興味関心にしたがって、スペースの許す限り次のとおり紹介しておこう。
・(スキーの時に被るような)目出し帽で顔を隠したサウジの治安部隊が真夜中に急襲し、24人以上の人々を逮捕して書籍やパソコンを押収した。この先週の逮捕劇は、あたかも過激派を相手にしたもののようだった。だが、対象は聖職者であり、学者、ビジネスマンたちだった。(反政府)活動家たちは、サウジでは2011年のアラブの蜂起のとき以降、最大のものだったという。
・「過去には、活動家が一人ずつ呼び出され、逮捕状を突きつけられたものだ」と、著名なサウジのジャーナリストで、今は海外に住むジャマル・カショギはいう。「覆面をした治安部隊は、テロリストを相手にしたときだけのものだった」
・逮捕された人の親族や活動家たちによると、逮捕された人の中には、ツイッターで1,400万人以上のフォロワーを持つ聖職者シェイク・サルマン・アル・オーダー、石油鉱物キング・ファハド大学の著名な教授ムスタファ・アル・ハッサン、東部かつ社会的名声のある商人一族出身のソフトウエア実業家エッサム・アル・ザミルたちがいる。
・サウジが主導しているカタール断交・禁輸措置を必ずしも支持していない人々が含まれており、カタール問題が関係している。だが、アナリストは、ムハンマド・ビン・サルマンがムハンマド・ビン・ナイーフを追い抜いて次期王位継承者となった人事がサウジのリーダーたちに不安をもたらしていることの現れだ、と指摘する。
・6月の人事はサウド一族に不安、動揺を引き起こしたため、内務相も解任されたムハンマド・ビン・ナイーフが自宅軟禁されているとの話を、政府は否定せざるを得なくなった。
・7月には、32歳のムハンマド王子は「Presidency of State Security」を組織した。王子が権力を集中するための動きだ、とアナリストたちは解釈している。今では、皇太子が今年か来年、サルマン国王から王位を継承する準備をしている、との憶測が高まっている。サウジ当局は、サルマン国王が近々退位するとの噂を否定している。
・今回の弾圧は、政府も方針に反対の声を上げるかも知れない人々に焦点が当てられている。そして、ムハンマド王子が国内外の諸問題に立ち向かっている時に起こっている。すなわち、ドーハとの争いは暗礁に乗り上げている。ムハンマド王子の最重要事項である改革プランの具体策、国家移行計画は、目標があまりに野心的だったとして書き直されている。
・「王子は、一方で、サウジの若者たちに人気のある社会的、経済的自由を拡大している。だが、一方で、市民社会の余裕をせばめており、王族メンバーは王子の改革プランを批判している」と、American Enterprise InstituteのAndrew Bowerはいう。「結局、独裁的な自由化(autocratic liberalization)なのだ。改革プランは困難に遭遇しているが、皇太子は人々を従わせるために、独裁的手法を取ることを躊躇しない、ということだ」
・活動家たちは、ムハンマド王子の改革プランがさらに遅れると、もっと圧政をひきおこすことになるのでは、と心配している。
・「メディアと人々との関係の支配という点で、我々は進んだ全体主義の直面している」とある書き手はいう。「サウジではいつも、沈黙にすら何がしかの余裕があるものだ。批判も制限されてはいるが、いくらかは許されている。だが、今はどうだ。これは恐ろしいことで、尋常ではない」
・政府は個別の逮捕について、あるいは逮捕者リストは公表していない。公的機関であるSaudi Press Agencyは先週、当局は何人かのサウジ人および外国人を、「外国勢力のための・・・情報活動」に関与した疑いで逮捕した、と発表した。
・サウジの最高聖職者団体であるThe Senior Scholar’s Authorityは先週、政府が取った行動を支持する、と宣言した。「この、神の祝福を受けた国家は、神の本と、神のメッセンジャーの導きにより建国された」とツイッターで言っている。「したがって、ここには政治的あるいは思想的な党(parties)が存在する場所はない」
・サウド家は何十年ものあいだ、イスラム主義者と複雑な関係を持ってきた。スンニ派イスラムの厳格な解釈を支持するワッハーブ派組織を、保守的な王国を統治する正統的根拠として利用し、一方で、イスラム主義者の過激派とその政治行動が、彼らが権力を保持することへの最も深刻な脅威だとも認識している。
・今回逮捕された人の中で最も著名なイスラム主義者オーダー氏は、1990年代に王国の政治改革を訴えたSahwa Movementのリーダーだった。2011年には「アラブの春」を支持する声を上げ、この政治改革をもう一度持ち出した。そのときが、最後にサウジで大々的な取締りが行われたときだ。この時は、東部の少数派であるシーア派の反政府活動家が対象だった。この時以来、オーダー氏は政治的コメントを控えている。
・今回の弾圧は、スンニ派イスラム主義者や批判グループ主流派が対象となっている。
・「ムハンマド皇太子が大々的に推進している「ビジョン」は、実際は、そこでは誰も自由に発言できない、個人的意見を持つことができない、巨大な刑務所になっているようだ」と、Human Rights Watchの中東調査員のAdam Coogleは言っている。
編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2017年9月19日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。