アメリカ人の既婚率低下は、格差社会の側面?

キリスト教会での結婚式、誓いの言葉といえば「健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し・・・」ですよね?しかし、米国で格差社会の荒波が押し寄せるなか「貧しいとき」に永遠の愛を誓えなくなっているようです。

共和党寄りの米国企業研究所(AEI)と民主党寄りのブルッキングス研究所が共同で18~55歳を対象に行った調査では、貧困層の既婚率は26%労働者階級では39%となり、中高所得者層の56%を大きく下回りました。ここでいう貧困層とは高校中退者あるいは所得別のトップ1~100位のうち80位以下並びに高校中退者、労働者階級はトップ50~80位で高卒あるいは短大卒、中高所得者層はトップ50位以上かつ大卒以上を指します。


(作成:My Big Apple NY)

米国生まれの場合をみると、格段にその差が広がります。中高所得者層の既婚率は54%労働者階級も35%と外国生まれを含めた上記の数字とそれほど変わらないものの、貧困層では18%に過ぎません。


(作成:My Big Apple NY)

貧困層におけるシングル・ペアレントの割合も、米国生まれと海外生まれを含む場合では大きく異なります。海外生まれを含むケースでは64%に対し、米国生まれのみでは72%へ上昇していました。貧困層で海外生まれを含んだ場合と米国生まれで数字が変わる主因は、米国での居住権の有無挙げられます。


(作成:My Big Apple NY)

ここで不思議に思いませんか?かつてキューバ系のマルコ・ルビオ上院議員(共和、フロリダ州選出)などが指摘したように、貧しければ1人より2人の方が心強い気がしますよね?しかし、なぜ貧困層の間で結婚を回避するのでしょうか?

第一に、結婚にかかる時間や費用に慎重となっている場合が考えられます。米国で結婚するにも役所を訪れ諸手続きを行うなど手間と時間と多少なりともお金が掛かりますよね。例えば、NY市内で結婚証明書を入手しようと思ったら35ドル必要です。マンハッタン南端にある市役所まで居住地がブロンクス北部なら約1時間掛かるわけで、労働時間に支障をきたす上に、往復6ドル、2人で12ドルが露と消えてしまう。さらに指輪やら市役所での結婚式用のドレスへの支出を迫られ、結婚で名前を変える場合には銀行名義や身分証の書き換えの義務が生じ、とにかく時間とお金が必要になってきます。

福利厚生をにらみ、結婚をためらう女性も少なくないことでしょう。NY市の場合、対象者はフードスタンプすなわち栄養補給支援(SNAP、貧困層向け食費援助)に加え女性・乳幼児向け特別栄養補給支援(WIC)を受給できますが、受給するには2人世帯で年収を2万9,637ドル以下に抑えなければなりません。夫の所得と合算してこの水準を超えるならば、敢えて結婚しないメリットの方が大きいですよね。低賃金の職ほど男女の所得格差は小さいとなれば、尚更です。

貧困層では、時代とともに雇用確保が困難になったことも結婚が遠のく一因なのでしょう。過去10年間で失業を経験した割合は1970年代で33%でしたが、2000年代では44%へ跳ね上がっています。逆に、中高所得者層は29%で変わりません。

最後に、既婚者の満足度をみてみましょう。結婚して「非常に幸せ」と回答した割合は中高所得者層が65%に対し、貧困層は54%でした。結婚への満足度では、両者の乖離が11%ポイントにとどまりました。いざ結婚したとなれば、富めるものであっても貧しいものであっても、ある程度の幸せが保証されるということですかね?

(カバー写真:Judit Klein/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2017年9月27日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。