今回の総選挙は、争点があるようでない。憲法・国防については自民・希望が同じ方向で、それに反対する「立憲主義」勢力はマイナーだ。経済政策も消費税の増税を掲げているのは自民党だけで、他の党はすべて増税には反対である。
増税の好きな人はいないので、それは政治的には合理的だ。この点でわかりやすいのは、希望の党である。小池百合子氏のあげている「三本柱」のうち、「消費税の増税凍結」と「原発ゼロ」は、見える税を減らして見えない税を増やすというポピュリズムで一貫している。
消費税を凍結すると財政赤字が5兆円増えるが、その分は「内部留保課税」6兆円でまかなうという。これは消費税という見える税を大企業の負担する見えない税に変えるものだが、大企業は日本から出て行き、成長率は下がるだろう。そのコストは、国民が広く薄く負担する。
「2030年までに原発ゼロ」というのは、民主党政権の「2030年代ゼロ」より極端だ。これは、いま動いていない原発を再稼動しないでそのまま廃止するということしか考えられないが、それによって電力会社の損害は数兆円増え、電気代が上がる。これも(逆進的な)見えない税である。
ところがベーシックインカム(BI)は、その逆だ。図のように税負担は1990年から減っているが、社会支出(OECD基準の社会保障支出)はGDP比で倍増しており、その差額が国債の発行になった。この社会支出を(年齢を問わない)定額給付にし、社会保障負担を税に切り替えようというのがBIである。
その発案者と自称する木内孝胤議員によると「2015年度の社会保障給付費114兆円のうち、医療費を除いた77兆円を人口で割ると、年間60万円になる」という。これは「基礎年金を置き換える」という先週の小池氏の説明とは違い、事業者拠出分を含む厚生年金まで廃止するものだ。
彼はこれに加えて「所得税の控除をすべて廃止すると課税所得が倍増する」というが、これは所得税の増税だ。つまりBIは、社会保険料という見えない税を見える税に置き換えることに他ならない。どういう税に置き換えるかはいろいろ考えられるが、年金保険料66兆円をすべて消費税に置き換えると26%ポイントの増税になる。
これは「負担増ではない」という木内氏の話は、テクニカルには正しい。今でも個人と企業は見えない税(社会保険料)を負担しているので、それを見える消費税に置き換える(34%にする)だけだ。事業者拠出分は「見えない法人税」なので、それを消費税(キャッシュフロー課税)に置き換えることは悪くない。
しかし年金を全部パーにすることが、高齢者の激しい反発を招くことはいうまでもない。彼らはその代わりBIをもらえるが、その額は厚生年金よりはるかに少ない。企業の積み立てた年金基金もなくなる。今はBIといわれても何のことかわからないから反応がないが、そのうち中身がわかったら、彼女の当てにする高齢者は絶対に彼女には投票しないだろう。