茨城一家6人放火殺人事件は決して「特殊な話」ではない

田中 紀子

NHKニュースより:編集部

報道ベースなので、まだ詳しいことは分かりませんが、
先日起きた、茨城県一家6人放火殺人事件、ついにこんな痛ましい事件が起きたか・・・
と暗澹たる気持ちです。

火事で母子6人死亡 夫を殺人容疑で逮捕「火をつけた」茨城(NHK NEWS WEB)

別の報道では、女性問題もあり、そこから離婚話が浮上して、今回の事件に至ったと書かれています。

つまりこれまでの報道で分かってきたことは、
今回の事件の容疑者である父親は、
・パチンコ通い
・女性問題
・無職
であり、しかも妻の稼ぎをあてにしていたとのことです。

この父親が、ギャンブル依存症であったかは不明ですが、少なくとも幼い子供が5人もいて、しかも自分は無職なのですから、「問題あるギャンブラー」であったことは間違いないはずです。

さらに記事の中から推測するに、この父親は、無職になる前もどうやら職を転々としている模様です。

もちろんこの様な残虐な事件を起こす背景には、彼のパーソナルな問題が他にもあったと思いますが、
実は、私たちギャンブル依存症の相談の現場では、このような状況の相談も、決して稀な話ではありません。

「これまでもギャンブルの借金を繰り返してきて、何度か私(妻)と主人の実家で借金を返済して来ました。最近は、どうやら付き合っている女性もいるようで、家にも帰らなくなりました。
そして、数日前職場から電話があり、夫が仕事に行っていないことが分かりました・・・」

といった内容です。
そしてこういった状況になると奥様の方は、
「夫は、子供だけは可愛がってくれている」と子供のことを考えて苦しくなったり、愛情なのか執着なのか分からなくなったり、一人で子育てをしなくてはならないと不安になったり、様々な感情や困難な状況が押し寄せてきて、「どうしたら良いかわからない」という混乱状態になります。

こうした中でも、相談に来て貰えれば、そのご家庭に応じてアドバイスし、一緒に対策を練って、励ましながら、共に行動していくことができます。現に、そうやって安全に離婚できたご夫婦や、ご主人が回復施設に入寮した例も数多くあります。

今回の事件の場合も、奥様はおそらく5人もの子供を抱え、生きていくのに必死で、どこかに相談に訪れる余裕も、そもそも相談という概念すらなかったのではないかと推測され、非常に残念でなりません。

皆さん、考えてもみてください。
もしご自分のご主人や、もしくは自分の娘や身内の家庭で、
夫が働かない上に、妻の稼ぎを撒きあげパチンコに通った上に、女性問題まである
となったら、果たしてそのことを誰かに打ち明けることができるでしょうか?

そもそもそういったごくプライベートな問題を、相談できる場所があるということに気がつけるでしょうか?

私なら、「こんな問題恥ずかしくて誰にも言えない。」と思いますし、もしかしたら勇気を持って親しい人に打ち明けた挙げ句、「あなたの愛情が足りないのでは?」などといった、的外れなアドバイスで散々傷ついているかもしれません。

よくあるのは、舅、姑に打ち明けて、逆に嫁が責められ、自分の親には心配かけたくないと抱え込み、妻が八方ふさがりになっているケースです。

国や都道府県は、今回の茨城の一家6人殺害事件を「極端な事件」として、葬ってはなりません。
この事件の根底には、どんな問題があったのか?
そして何故、妻と5人もの子供を失わねばならなかったのか?
再発防止策を必ず検討して欲しいと思っています。

この家族に起きていた背景は決して特殊な話ではありません。
私たちが、いつも身近に見聞きしている、よくある家族の話なのです。


編集部より:この記事は、一般社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表、田中紀子氏のブログ「in a family way」の2017年10月9日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「in a family way」をご覧ください。