「東大応援部物語」(最相葉月著 集英社)という本があります。
「連戦連敗の東大。そんな彼らをひたすら応援している…」という内容で、2003年9月の刊行です。
去る10月8日、東大野球部が2002年以来15年ぶりの勝ち点を上げたので、同書の取材は15年前に勝ち点を上げる以前から行われていたのでしょう。
1年生の春季に慶大と立大を破って4位になった(一種の)成功体験の影響と、土日に都内の一等地で数百円で生の野球観戦ができるというコスパの良さもありました。
動機はともあれ、応援部諸氏の影響で、いつしか懸命に応援するようになりました。
以前、「死ぬ前に後悔しないよう」という記事で書いたように、原因不明の体のしびれや痛みに悩まされた時期がありました(今は改善途上です)。
そんな折、ふと「神宮球場にもう一度でいいから行ってみたい」と思い、家内の運転する車で行くことにしました。
絵画館の外苑駐車場から球場まで歩くことすらしんどかったのを覚えています。
いつでも帰宅できるよう、応援席よりもひとつ内側の内野席で観戦したら、応援部諸氏が必死で応援する姿に圧倒されました。
どんなに点差が離れていようと決してネガティブな言葉は出さず、例えば「10対0」の9回裏でも大声で「今から逆転しますよー!!」と元気一杯なのです。
その後、頻繁に足を運ぶようになり、昨年の対明治戦でのサヨナラ勝利も観ることができました。その時、応援部の彼ら、彼女らの目に涙が浮かんでいたのを憶えています。
応援部の練習は半端ではありません。
夏合宿では、声を出したりおんぶをし合ったりして40キロ走行をするそうです。
普通のフルマラソンよりもはるかに過酷な練習です。試合中に常に動き続けるスタミナは、そういう練習の賜物なのでしょう。
もうひとつ感心したのは、応援部諸氏は決して「甲子園組ばっかり入れやがって!」などと相手大学を揶揄したりしないことです。
私達素人は、大阪桐蔭とか履正社とか浦和学院とか、選手の出身校アナウンスされるたびに、「ずるいな〜」と思います。しかし、彼ら、彼女らは、現状を素直に受け入れてひたすら応援していました。
2日連続は無理にしろ、土日のうち1日くらいは応援席に入って応援できるまでに私の体力は回復しました。
その時驚いたのは、応援席の年齢構成の高さでした。平均年齢は軽く50歳を超えています。上の方の席から見ると、白髪や薄毛の人たちがたくさんいます。
東大だけかと思って他大学応援席を覗いてみると、これまた平均年齢が高い。
最近70代よりも20代の方が外出率が低いという調査結果が出ましたが、神宮球場の高齢化もその影響を受けているのかもしれません。
私が最も感動したのは、今シーズンの対慶大戦で、「8対1」と大差が開いていたのに、応援部諸氏は決して諦めずに大声を上げ体をフルに動かして全力で応援していました。
試合の後半(7回か8回くらい)に東大が猛然と反撃し、2点差くらいまで迫ったのです。
結局試合は負けましたが、東大が10点も取るのを初めて観ました。と同時に、最後まで諦めない野球部と応援部の姿に深い感銘を受けました。「まだ試合は終わっていません!」という応援部員の言葉が印象的でした。
他大学の選手の出自に決して文句を言うことなく現状を現状として受け入れ、ゲームセットまで決して諦めない姿勢は、私たちの人生にとっても大きな示唆を与えてくれるような気がします。
怪我や病気、はたまた金銭的困窮など現状がどれだけ酷くとも、ただ嘆くだけでは何もすすみません。
現状を素直に受け止めた上で、今やれることをやるしかないのです。
また、人生は終わるまで何が起こるかわかりません。自殺するしかない状況に陥った時に、何億円という宝くじが当たることがあるかもしれません。
現状を素直に受け入れ、最後の最後まで諦めない。
若い諸氏に教えられた貴重な教訓です。
編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年10月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。