地球に最接近する小惑星と「選挙」

長谷川 良

今週末はドイツ語圏だけでも2つの選挙が実施される。オーストリアの国民議会選とドイツのニーダーザクセン州議会選だ。両選挙とも前倒し選挙だ。前者では31歳の若者が欧州最年少の首相ポストを目指す一方、後者ではドイツの2大政党、「キリスト教民主党同盟」(CDU)と社会民主党(SPD)がトップ争いをする。両選挙とも反難民政策を訴えて躍進してきた政党、オーストリアの極右政党「自由党」、ドイツは「ドイツのための選択肢」(AfD)の動向が注目されている。

▲小惑星、2012DA14、地球に急接近(NASAのHPから)

▲小惑星、2012DA14、地球に急接近(NASAのHPから)

「今年は欧州では選挙の連続だ」という思いが自然と湧いてきた。フランス大統領選(4月23日、5月7日)やドイツ連邦議会選(9月24日)など欧州主要国の選挙が行われてきた。欧州の政界が大きな転換期に直面している。古い指導者、政党は力を失い、新しい指導者、世代がその主導権を要求してきた。

このコラムを書きだした時、「小惑星が地球に接近」という2本のニュースを思い出した。9月初め、直径約4.8キロもある巨大小惑星「フローレンス」が地球から約700万キロの距離を通過した。CNNによると、「フローレンスほどの巨大な小惑星が地球にここまで接近するのは、NASAが地球周辺の小惑星の観測を始めて以来、初めて」という。

今月12日午後には、小惑星(2012TC4)が地球に接近して通過したばかりだ。この小惑星は直径10~30メートル。地球から約4万3500キロメートルまで接近した。地球と月の距離が約40万キロだから、4万3500キロはかなり近い、一時期、地球衝突説が流れたほどだ。

直径10メートルの小惑星でも地球に衝突すれば、北朝鮮の6回目の核実験より大きな衝撃が地球全土に波及し、想像を絶した被害が出てくる。米地質学調査(USGS)によると、約4万9000年前、小惑星が地球に衝突し、米アリゾナ州に直径1・2キロメートルのクレーター(バリンジャー・クレ-ター)を残した。

2013年2月、小惑星「2012DA14」が地球から約2万7000キロまで接近し、静止人工衛星より地球に近いところを通過したことがあった。小惑星は大きさが45~50メートルで推定13万トン。当方は「『思考』を地球の重力から解放せよ」(2013年2月9日)という見出しのコラムの中で、「小惑星の急接近は、一時的にせよ地球上の紛争やいがみ合いを忘れさせ、私たちの目を宇宙に向けさせる機会となるだろう。ひょっとしたら、小惑星の急接近は、私たちの思考世界を地球の重力から解放し、偏見も拘りもない、自由な世界に飛躍させてくれるかもしれない」と書いたが、今、同じ思いが湧いてくる。

小惑星の軌道が地球と衝突しないことは事前に分かっていたが、やはり考えてしまった。国連宇宙局科学技術小委員会の第50会期で報告された「地球近傍天体(Near Earth Object,、NEO)に関する作業会報告書」によると、1980年1月から2012年3月までに観察された地球近傍小惑星(NEAs)の総数は約8500個、ただし直径1キロメートル以上のNEAs数は1000以下だ。なお、「天候と同様、NEOは人類が完全には予測できない“Acts of God”(神の行為)だ」(同報告書)と受け取られている。

たとえ、トランプ米大統領がIQテストでティラーソン国務長官より上でも小惑星の衝突を回避できないだろう。金正恩労働党委員長が主体思想を標榜し、核・ミサイル開発に没頭したとしても、小惑星の前には無力だ。電磁砲を強化する中国も小惑星の軌道を変えることはできないし、ロシア民族の再興を夢見るプーチン大統領も小惑星がモスクワのクレムリンに向かった時、そんな夢はあっという間に消えていくだろう。幸い、小惑星の地球衝突というシナリオがこれまで現実とならなかっただけだ。

天動説時代から地動説時代に入り、海洋時代から宇宙時代に突入した今日、人間の思考世界が旧態依然の世界に留まっている限り、人類は新しい世界に入れなくなる。オバマ前米大統領はチェンジを叫んだが、そのチェンジは米国レベルではなく、地球レベル、宇宙レベルで訪れているのではないか。

多くの知識人たちは21世紀が大きな宇宙的な転換期を迎えていることを薄々感じている。政治、経済、文化、宗教もチェンジを叫ぶ人々が増えてきたが、どの方向に向かうべきかを自信をもって語れる人はほとんどいない。だから、現代人は焦燥感に陥り、時には虚無主義の虜になってしまう。

当方は今、オーストリア総選挙やドイツ州議会選挙の行方を考える一方、「小惑星、地球に最接近」というニュースが頭から離れないのだ。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年10月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。