今年のノーベル経済学賞に、シカゴ大学のリチャード・セイラー教授が選ばれました。行動経済学の研究者です。
行動経済学というのは、従来の経済学が「人間は合理的に行動する」という前提に立っていたのに対し、心理学を加味して「人間は必ずしも合理的に行動するわけではない」というアンチテーゼを投げかけたものです。
シカゴ大学は「法と経済学」の分野の研究でも有名です。
こちらの方は、伝統的なミクロ経済学で法律や制度を分析したり、双方の分野を合わせて研究するものです。
例えば、「法と経済学」では、犯罪発生率を抑制するのに「刑罰を重くする方向」と「検挙率を上げる方向」があると考えます。
犯罪者が合理的であれば、検挙される確率が高くなれば犯罪を思いとどまるだろうし、検挙されて下される刑罰が重ければますます犯罪を思いとどまると考えます。もちろん検挙率を上げるには警察官の増員というにコストがかかるし、犯罪者を全て重罪にすることも不可能です。
それらを斟酌して、(犯罪被害を含めた)社会全体のコストを最も低くする方法を考えるのが「法と経済学」の一事例です。
ハーバード・ロースクールを舞台にした往年の名画「ペーパーチェイス」(私のオススメ映画の一つです)で、契約法の教授が学生に以下のようなケースについての考えを述べさせる風景がありました。
「片手が毛むくじゃらで困っている男性に対し、医師が完全に治すと約束した。ところが、手術は失敗して以前よりもひどい状態になった。男性が医師に対して賠償請求できるのはいくらか?」(かなりはしょっています)
これも「法と経済学」の分野の問題です。
では、「法と行動経済学」となるとどうなるのでしょう?
「法律学」「経済学」「心理学」の3つの分野で考えるとなると、かなり複雑です。
今話題になっているコンサートチケットの転売問題について、「競争社会の歩き方」(大竹文雄著 中公新書)は明快な解説をしています。
高い値段でもほしいという人がたくさんいるのなら(需要が大きいなら)、最初から高い値段で売り出せばいい。ただ、行動経済学的に見ると、人気アーティストになったからと言ってチケットを高値で売るのは反感を招く恐れがあるという説明がなされていました(私の理解不足なら深くお詫びします)。
その点を斟酌して、同書では望ましい解決策が提示されるのですが、へそ曲がりの弁護士である私は、
「そもそも今の時代定価販売すること自体、独禁法に触れるのではないか?書籍の再販制度でさえ問題視されているご時世なのに」
などと考えてしまいます。
結局、それぞれの分野の専門家が集まってあれこれ議論するしかないのかもしれません。
そういう意味では、シカゴ大学という同じ大学で「行動経済学」と「法と経済学」が盛んであるのはとても興味深いことです。
学問間の敷居を低くしているのでしょうか・・・ご存じの方がいらっしゃったら、是非ともご教授下さい。
編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年10月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。