シェール生産効率改善はピークオフしたのか?

キルクーク自治政府(KRG)が2014年以来実効支配していたキルクーク油田地帯にイラク軍が侵攻し、抵抗を受けることなく占領した、とのニュースが流れている。その結果、KRG地域を通過してトルコの地中海沿いのジェイハン港へのパイプライン経由の原油積出量が減少しているそうだ。

最近、この手の地政学リスクに反応を見せることが少なくなったブレント原油市場は、久しぶりに60ドルを窺う水準にまで上昇している。

地政学リスクに反応しないのは、価格が上昇するとシェールオイルの増産が起こり、結局は相場を下押しするのでは、と市場参加者が見込んでいるからだ。

これらは、FTの”Oil prices buoyed by Kurdish and Iraqi tension, says leading traders” (22:00 on 18 Oct. 2017)が伝えるところだ。

一方、FTによると、BP、トタールの最高経営責任者は、ここ2~3年の資本投資減少が近い将来の需給タイト化、価格上昇を警告している(”Total chief warns against shying away from fossil investment” & “BP Dudley says ‘swimming pools are draining’ as oil market tightens”)。

原油の生産量というものは、短期間の価格変動には鈍感だ、というのが在来型の石油開発事業の下では常識だった。巨額の初期投資を必要とし、生産が始まってからの変動費は相対的に少額だからだ。
だが、2015年10月、BPの調査部門のトップであるスペンサー・デールが「石油の新経済学」と題した講演で指摘したように、シェール革命により価格弾力性が強まっているのは事実だ。だから価格上昇は短期間でシェールオイルの増産を招く、という読みが市場参加者の心の奥底に根付いている。

しかし、一つ考えなければいけないポイントがある。
需要の伸びに応じてシェールオイルが、コスト増を招くことなく増産できる、ということが市場参加者の「読み」の前提にある、ということだ。

これまでシェールオイルは生産効率を改善し続けてきた。多くの中小シェール業者は、生産することで得られるキャッシュフローでは開発コストを賄えないため、金融界からの投融資によるキャッシュ投入に事業継続を支えられている。だが、「生産効率改善」が続かなくなった場合にどうなるか、大いに疑問が残るところである。

さて、掲題だが、FTは “In charts: has the US shale drilling revolution peaked?” と題して報じている(18:00 18 Oct. 2017)。EIAやBaker Hughes等のデータからチャートを作成し、さまざまな観点から「生産効率改善が今後も持続できるのだろうか?」と疑問を投げかけている内容だ。

長い記事だが、添付されている各種グラフをみるだけでもおおよその傾向は把握できるので、ぜひ眺めていただきたい。

添付されているグラフは次のとおりだ。

シェールオイルの生産量と稼働リグ数の推移(2007~2017)
2012年から2015年まで、リグ数はほぼ不変で生産量が急増しているのが分かる。DUC(掘削済み未仕上げ坑井)があるので正確ではないが、生産効率が急激に改善した、という意味だ。

各生産地域別、新規掘削リグあたりの生産量推移(2007~2017)
主要生産5地域のうち、バッケンを除く4地域で2016年後半にピークオフしている。

各生産地域別、坑井1本あたりの掘削時間の短縮(2013~2017)
パッドドリリングの採用で短縮が実現できたが、全地域で横ばいになっている。

垂直掘りと水平掘り掘削リグの比率(2011~2017)
2011年にはほぼ半分ずつだったが、爾来、水平掘りの比率が増加し、今ではほぼ全てが水平掘りとなっている。つまり、リグ種類の変更によるリグあたりの生産量増加はほぼ終了した、ということ。

パーミアン地域における生産効率改善(2014~2017)
最近もっとも人気のあるパーミアン地域でも生産効率改善は止まった。パッドドリリングと共に生産効率改善をリードしてきた「大量の水圧破砕(bigger fracking)」を実行できる地層が少なくなったからと分析。スィートスポットは掘り終わった、ということか。

米国石油業界は外部資金導入で事業を継続している(2009~2017)
在来型では自己資金で事業を推進するのが通常だが、埋蔵量リスクのないシェールオイル事業には外部からの投融資が盛ん。中小のシェール業者は、生産事業から上がるキャッシュでは新規投資資金をまかなえず、2009年を最後に借入>収入の状態が続いている。生産効率改善が止まったと分かったら、資金流入は止まるのか?

専門用語の羅列で恐縮だが、ご興味がある方はぜひ弊著『原油暴落の謎を解く』(2016年6月、文春新書)をお読み下さい。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2017年10月19日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。