ガツンと「叱る」と折れる部下。だったらホメればいい

尾藤 克之

写真は参考書籍書影より


アゴラでは、「出版道場」という出版ニーズに応えるための実践講座を年2回開催している。その影響もあり、著者や出版社から献本されることが非常に増えている。良著と思われるものを記事にしているが、今回は、『自分をほめる習慣』(すばる舎)を紹介したい。著者は、人材コンサルタントの原邦雄(以下、原氏)である。

キャプチャーのように、「うさぎ」の写真を使った表紙が印象的な本である。うさぎを使用する本は滅多にないので理由を考えてみた。あるペット屋のHPに、うさぎは感受性が豊かで、人の声を聞き分けると書かれていた。そのため、「ほめる」「しかる」が大切だとのこと。この本のテーマは「ほめる」。それに関連付けをしたものと推測した。

「ほめる」ことで自己を見つめなおす

――原氏によれば、人の悩みは、大きく分けて3つのカテゴリーがあるという。「人間関係」「仕事·お金」「健康」の3つになる。これらの悩みは自分をほめて「自己肯定感を高めること」によって、ある程度の解決が可能になるそうだ。

「この3つは、すべての人が大なり小なり悩みとして抱えています。自分をほめることでセルフイメージを高めていけば、これらも自然と解消されます。『人間関係』についての悩みは、残りの、『仕事·お金』『健康』にも大きく影響します。人間関係の悩みが解消されると、他にも良い影響を及ぼします。」(原氏)

「人間関係の悩みを解消するうえで、大切なスキルのひとつに『感情のコントロール』があります。人は感情の生き物です。どれだけ冷静でいようと思っても、相手のちょっとした言葉や振る輝いにイラっとしてしまったり、悲しい想いをしたり、逆に気遣いがすごく嬉しかったりするものです。」(同)

――ここで、推奨する方法は、「自分の感情を押し殺し常に笑顔でいるべき」とか「どんな理不尽にも耐え忍ぶ力を身につける」というものではない。つまり、感情をコントロールしてネガティブな意識を消し去るというものではない。

「むしろ、感情を出したいときは出していいのです。怒らなければいけないときは怒る、悲しんでもいいときは思い切り悲しむ、喜んでいいときは全力で喜ぶ。怒りや喜びの感情に振り回されて誰かと付き合うのではなく、『ここは怒りに入れよう』『今は喜びに入れよう』『悲しみに入れよう』というコントロールです。」(原氏)

「感情のコントロールができるようになるためには、『自分の軸』が必要になります。『そんなものない』と思うかもしれません。今はそれが隠れてしまって見えなくなっているだけ。『ほめる習慣』が身につけば見つけることができます。」(同)

――本書でいう、「ほめる」とは、自分が「自分はかけがえのない存在なのだ」ということに気づくことにある。日本人にはネガティブな人が多い。「自分のことをほめるなんて」と思う人もいるだろう。しかし、自己肯定感を高めることで自らを客観視することが可能になる。ポジティブシンキングはの手法としては間違えてはいない。

「自分をほめる」という切り口について

2000年以降、多くの会社で成果主義人事制度が導入された。しかし、社員のマインドは疲弊し漠然とした不安が蔓延した。その後、社内活性化プログラムの一つでEQ( Emotional Intelligence Quotient)がブームになる。当時、私はEQを専門的に研究する機関に所属していたが、ここはEQ理論提唱者が認可した世界唯一の機関になる。

その後、EQブームは収束していったが、新たな理論が台頭してくる。本書の「ほめる」という切り口は、EQ理論で解釈することが可能である。私的自己意識、楽観性、セルフエフィカシーなどの素養が該当する。心理学用語や素養は難解で一般性を持つものではないが、本書の、「ほめる」は平易で誰にでもわかりやすい。

「ほめる」だけでは問題は解決しないが、自分をほめることで自分と向き合い、自らを客観視する作業はセルフマネジメントを高めるには効果的である。

また、「ほめる」スキルは、マネジメントにも効果を発揮する。やる気がなさそうな部下を目の前にすると、長所を見つけるのは難しいという人もいるかも知れない。しかし、いまの人は、ガツンと叱ると折れてしまう。さてどうしたものかと悩む管理職は多い。部下を成長させるには、適切に「ほめる」ことが効果的である。

本書で、述べているように、感情をコントロールして「ほめる」ことの効果は高い。頭ごなしに「叱る」と部下は凹む。頭ごなしに、ほめても、部下は凹まない。相手の感じ方によるが、ちょっと言葉が、マネジメント効果を高める契機になるかも知れない。もちろん、自分の意識を高める方法として「ほめる」を使用することも効果的である。

参考書籍
1日1ほめで幸運を引き寄せる 自分をほめる習慣』(すばる舎)

尾藤克之
コラムニスト

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