【映画評】バリー・シール/アメリカをはめた男

渡 まち子
バリー・シール アメリカをはめた男

民間航空会社に勤めるバリー・シールは、トップクラスの操縦技術を持つ天才パイロット。ある日、CIAエージェントにスカウトされた彼は、極秘作戦に加わるが、偵察飛行機のパイロットとして働く過程で、伝説的な麻薬王と接触するようになる。やがて彼は、CIAやアメリカ政府の命令に従いつつ、同時に違法な麻薬密輸ビジネスで数十億円の金を荒稼ぎするようになる。しかし、彼の背後には大きな危険が迫っていた…。

1970年代に、航空会社のパイロットからCIAのエージェントに転身、さらに麻薬の運び屋として巨額の富を得た実在の人物バリー・シールの半生を描く人間ドラマ「バリー・シール/アメリカをはめた男」。魅力あふれる悪党の活躍を描く、いわゆるピカレスクものだが、CIAや政府を巻き込んでの悪行は、あきれるばかりの狂騒で、これが実話だというから驚いてしまう。悪人であろうと使える人材はまるごと抱え込み利用するアメリカという国は、まったく懐が深い。

だが副題にもなっている“アメリカをはめた男”というのは、少し違う。確かにバリー・シールは、CIAにスカウトされ、トンデモないことをやってのけた。だがバリー自身の意志で行ったのではなく、相手に言われたことを操り人形のようにこなしただけなのだ。それでも、レーガンやノリエガ、ブッシュなどの実在の大物がストーリーに浮上すれば、これはバリー・シールという狂言回しによって語られる、アメリカの愚行そのものの物語なのだと気付く。ダグ・リーマン監督の父は、本作の最後にチラリと語られる「イラン・コントラ事件」の真相解明に尽力した人なのだそう。ノリはあくまでも軽く、トム・クルーズはあくまでも俺様スター。社会派映画でありながら、コミカルな味付けの風刺をたっぷり込めた歴史秘話的エンタテインメントとして楽しめる。
【65点】
(原題「AMERICAN MADE」)
(アメリカ/ダグ・リーマン監督/トム・クルーズ、ドーナル・グリーソン、サラ・ライト・オルセン、他)
(歴史秘話度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年10月22日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Facebookページから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。