習近平総書記が率いる中国共産党の最高指導部、党中央政治局常務委員のメンバー7人が25日、第19期中央委員会第1回全体会議(1中全会)の後に紹介された。日本での報道ぶりは精査していないのでわからないが、一方では「習近平の1強」といい、一方では「人事が混迷した」という記事を見かけたが、明らかに矛盾している。混迷したのは根拠に乏しい予想報道の方である。
実態は習近平が権力を掌握し、厳格な秘密保持のもと、自分の思い通りの人事をした。だからこそ「1強」だと言える。「いったんは内定したが…」などと、記事の矛盾を取り繕うため苦しい言い訳をしているのは、読者を混乱させる。素直に謝ればよい。ただそれだけのことだ。リスクを恐れて何も書かないより、たとえ功名心が加わっていても、真実に少しでも近づこうとする努力の方が尊い。むしろ、混迷した報道ぶりを反省する中で、見えてくるもに価値がある。反省もせず、自己保身の言い訳をするのは救いようがない。
6月末、中国報道にかかわる日本メディアの友人と会食した際、こんな話をした。
「派閥間の駆け引きがあれば、人事情報も流れてくるが、習近平の一人勝ちでは情報が漏れてこない。彼は他の長老に相談する必要もなく、胸三寸で決めてしまうからだ。夏の北戴河会議もすでに有名無実化しているので、重要なことは決まらない。人事の事前情報の扱いには気を付けた方がいい」
政治の流れをロジックで眺めていれば、当然、そういう結論にならざるを得ない。もちろん記者には特ダネを求める本能があるので、少しでも情報をつかめば書きたくなる。気持ちはよくわかるが、習近平の2期目人事で大切なのは、結果ではなく、選び方にある。そこから彼の権力掌握と将来の展望が見えてくる。
反腐敗キャンペーンによって引退幹部の口を封じた習近平は、王岐山の退任によって名実ともに紅二代の唯一の代表となった。かつ、明確な後継者を決める慣例を破ったことで、引き続き指導部内での相互監視、競争状態を維持し、キングメーカーとしての地位を温存した。長期政権は必至となった。それは同時に、彼が掲げる「新時代」の課題がいかに困難であるかを物語っている。
前回の第18回党大会前は、胡錦濤前総書記が指導部選出にあたり、党幹部による非公式な候補者への投票を行った。党規約は、党中央委員会が党政治局委員、政治局常務委員を選挙で選ぶと定めており、今回の1中全会がそれに相当するが、単なる形式に過ぎない。胡錦濤時代に行ったのは、それに先駆けた、予備選挙のようなものだった。江沢民元総書記の勢力に押され、権力基盤の弱い胡錦濤は、「民主」的な手続きに訴えて、党内の世論を味方につけようとしたのだ。いかにも官僚出身のエリート的発想である。
その結果、胡錦濤に近く、能吏と目されていた当時の李源潮・党中央組織部長と党中央弁公庁主任の令計劃がいずれも上位に入った。だが、令計劃は政治的野心にかられ、周永康らと気脈を通じて政権転覆のクーデターに加担したことが発覚する。自らが常務委員入りするための集票活動を行っていたことも暴露され、完全に失脚した。李源潮も令計劃の選挙工作にかかわっていたことが明るみになり、常務委入りは遠のいた。腹心二人の醜態によって、胡錦濤の権威は大きく傷ついた。
習近平は指導部選出にあたり、投票がなじまないこと、候補者に関する情報の管理が生命線であることを学んだのである。
(続)
編集部より:この記事は、汕頭大学新聞学院教授・加藤隆則氏(元読売新聞中国総局長)のブログ「独立記者の挑戦 中国でメディアを語る」2017年10月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、加藤氏のブログをご覧ください。