動物写真家の岩合光昭が、ネコ目線で世界各地の猫を撮影するNHKの人気テレビ番組の劇場版「劇場版 岩合光昭の世界ネコ歩き コトラ家族と世界のいいコたち」。津軽のリンゴ農園で暮らす“コトラとその家族”の姿を未公開映像を交えて紹介するパートと、番組で紹介した世界のネコのなかから、厳選した“いいコたち”の姿を映し出すパートで構成された動物ドキュメンタリーだ。
岩合光昭氏は、自身がライフワークとして40年以上もネコを撮り続けているというだけあって、ネコの自然な姿をとらえるのが実にうまい。人間のすぐ近くで暮らすネコの中にひそむ野生を大切にしているという撮影方法は自然との関わりが綿密で、この劇場版でもたっぷりと堪能できる。TV番組のための撮影時から、いつか劇場版を、との思いがあったそうで、大スクリーンに映えるネコの繊細な表情をとらえるアップの映像が多いのが印象的だ。さりげないが魅力的なシーンが多く、このワンカットを撮影するのに、どれほどの時間と労力を費やしたのかと感服する。
私自身が自他ともに認める猫好きなので、映画を見ているだけで幸福感にどっぷりと浸ってしまい、もはや映画レビューなど書ける精神状態ではないのだが(笑)、動物を擬人化したりせず、あくまでもネコの野性、習性、生命力を尊重しつつ、世界各国の飼い主の猫愛をも伝える手法は、正統派の動物ドキュメンタリーと言えよう。ナレーションの吉岡里帆の静かであたたかい声も大きな魅力だ。四季を通してネコたちと関わり、世界の街角で生きるネコたちの多彩な魅力に迫るこの作品は、ネコと同じ高さのカメラで、ネコが見ているであろう世界を疑似体験できるのが嬉しい。ネコ好きの心をとらえて離さない、珠玉の作品だ。
【65点】
(原題「劇場版 岩合光昭の世界ネコ歩き コトラ家族と世界のいいコたち」)
(日本/出演:岩合光昭、語り(ナレーション): 吉岡里帆、他)
(猫愛度:★★★★★)
この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年10月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。