衆院選当選議員に見る海外留学地図

大西 好宣

コロンビア留学組の小泉進次郎氏(内閣府サイトより:編集部)

衆議院選挙が終わった。この時期、必ずと言って良いほど出てくるのが、当選議員の出身大学に関する話題である。やれ東大卒が多いとか、早慶ばかりだとかいうアレである。組閣後になると報道はさらに加熱する。安倍首相の出身大学が全国区でないこともあって、近年は少々沈静化した面があるものの、首相が東大卒だったり慶應卒だったりした時のマスコミの騒ぎようは一種の風物詩でもある。

さて、本稿で紹介したいのは政界の新たな二大学閥の話である。
と言っても、東大vs京大とか、早稲田vs慶應といった国内向けのチンケでありきたりな話ではない。時代はもはやグローバルなのである。これまでとは違って、目を外に向けてみよう。それは、当選議員たちの留学先、つまり海外の大学だ。

今回の当選者465名の中で、最終学歴として外国の大学名を表記している議員、つまり海外留学歴のあるセンセイたちは、投票日翌日の新聞で確認した限り計40名いる。そのうち最も多い留学先はアメリカで32名、以下イギリス5名、カナダ2名、フランス1名と続く。現実の同盟関係を想起すれば、これは大方の想定内であろう。

次に、個別の大学を見てみよう。最も多いのはハーバード大学の11名。この大学だけでアメリカ留学組全体の実に3分の1を占めている。秘書への暴行・暴言疑惑がもとで落選した某女史が当選していれば、さらにもう1人増えていたはずだ。

ハーバード大学については今更説明の必要もないだろう。学術都市ボストンの近郊に位置し、創立はアメリカ独立前の1636年。同国最古の名門大学として世界中にその名を知られ、Times Higher Educationによる世界大学ランキングでも、近年こそ少々順位を落としているものの、当初の数年間は世界第1位として君臨した。

留学組の顔ぶれも豪華だ。上川陽子・法務大臣、茂木敏充・内閣府特命担当大臣(経済財政政策担当)、齋藤健・農林水産大臣といった3名の現役閣僚のほか、塩崎恭久・元厚生労働大臣など、実に錚々たる顔ぶれである。参議院議員なので今回の選挙とは関係ないものの、同じ閣僚の中には林芳正・文部科学大臣もいる。いずれも自民党の中では政策通として知られる議員たちである。

さて、そのハーバード大学に対抗するのはどこであろうか。同大にとっての永遠のライバル、イェール大学であろうか。はたまた、西のハーバードとも称される名門スタンフォード大学であろうか。いや、答えはハーバードと同じアイビーリーグの一校コロンビア大学である。

今回当選した議員のうち、7名が同大を卒業している。最終学歴は博士号を取得したニューヨーク大学と表記しているものの、修士課程をコロンビア大学で過ごした佐藤ゆかり・元経済産業大臣政務官や、卒業はしていないものの同大への留学経験がある古川元久・元内閣府特命担当大臣(経済財政政策・科学技術政策担当)を含めれば計9名となり、ハーバード留学組とほぼ拮抗する人数である。

コロンビア大学の創立はハーバードより約100年遅い1754年で、アメリカでは5番目に古い大学として知られる。ヨーロッパではその2年後に大作曲家モーツァルトが生まれているが、アメリカはまだ独立前である。キャンパスは同国における経済の中心地ニューヨーク・マンハッタンにあり、ノーベル賞受賞者を世界で最も多く輩出したことでも知られる。我が国初のノーベル賞授賞者である湯川秀樹博士も、実はこの大学で研究生活を送っていたことがある。

第2位のコロンビア大学に次いで多いのは、河野太郎・外務大臣らが留学したジョージタウン大学の2名、そして同じくアメリカのジョンズ・ホプキンス大にも2名が留学している。つまり、今回の当選議員に限れば、ハーバード及びコロンビア両大学への留学組だけが数の上では突出しているのである。本稿の最初に「二大学閥」と書いたのはそのためだ。

実はこれは政治家に限った話ではなく、一般の日本人の間でも両大学は留学先として人気が高い。それは、この二つの大学が共にアメリカにおける戦時中の日本研究を中心的に担ったという歴史的な役割が関係している。それゆえ両大学とも日本との絆が強く、ハーバード大学の日本研究は今もかつての駐日大使の名を冠したエドウィン・O・ライシャワー日本研究所が、そしてコロンビア大学のそれは著名な作家の名を冠したドナルド・キーン日本文化研究所が継続し、今に至っている。

さて、政治家の話に戻ろう。コロンビア大学への留学経験を持つ当選議員の顔ぶれがハーバードのそれと少し異なるのは、いわゆる二世・三世の比較的若い議員が目につくということだろう。ハーバード留学組のような現役の閣僚クラスではないものの、今後を大いに嘱望される若手のホープたち、と言い換えても良い。

その筆頭は小泉純一郎・元首相を父に持つ小泉進次郎議員であろう。今回の衆院選でも各地の応援演説に引っ張りだこだった。コロンビア大学への留学組としては、ほかにも中曽根康弘・元首相を祖父に持つ中曽根康隆議員、加藤紘一・元自民党幹事長を父に持つ加藤鮎子議員らがいる。いずれも今後、党内外で重要な役割を担う可能性が極めて高い。ハーバード大留学組との水面下での熾烈な出世競争が大いに見ものである。

大西 好宣(おおにしよしのぶ) 千葉大学教授 慶大、コロンビア大(院)、チュラロンコン大(院)修了、高等教育学博士。NHK、国連勤務等を経て現職。