安倍政権と日銀の愚民政治:『日銀と政治』

池田 信夫
日銀と政治 暗闘の20年史
鯨岡仁
朝日新聞出版
★★★☆☆


きょう日銀の金融政策決定会合が終わったが、誰も関心をもたない。金融政策では何もできないことがわかったからだ。ゆるゆると景気拡大が続いている原因は、日銀が国債や株式などを買う「日銀の財政政策」による資産インフレだが、それも長期金利がゼロになったら終わりで、あとは銀行のバランスシートが劣化するだけだ。

本書はこの20年、政治に振り回されてきた日銀の歴史のおさらいだが、気になるのは登場人物がそろって「景気と財政再建のトレードオフ」の変数として消費税率を想定していることだ。実際には、それより大きなデフレ要因があった。OECDの集計では社会保障支出は20年で1.5倍に増え、社会保険料の負担は消費税の3倍以上になった。

社会保障関係費と称する特別会計の赤字補填が一般会計の1/3に達するのは世界にも類をみない財政構造だが、この状況でマネタリーベースを3倍以上に増やしても可処分所得は減る一方だから、物価は上がらない。クルーグマンやスティグリッツも、社会保険料にはまったくふれない。日本の財政がこんないびつな構造になっているとは知らないからだ。

「景気拡大が実感できない」のはこの負担増のためだが、社会保障は日銀のコントロールできない与件なので彼らは関心をもたない。政治家はこの赤字補填を少し減らす3党合意さえ守ろうとしない。その政府債務を負担するのは(彼らの選挙に無関係な)将来世代だから、消費税を上げないで「見えない税」を上げる愚民政治が続いてきた。

安倍首相も金融政策に興味を失い、最近は「教育無償化」などの財政支出に熱心だ。本書によると「GDP600兆円」というキャッチフレーズの発案者は、藤井聡氏(内閣官房参与)だという。バラマキでいいなら、最初から財政を拡大すればよかった。この4年半の異常な量的緩和は何だったのだろうか。