米国とドイツ、英国の10年国債の利回り、いわゆる長期金利の動きはかなり似通っている。格付け上位国であり、お互いの影響も受けやすい。これは日本の長期金利にも、ある程度はあてはまるが、こちらは日銀のイールドカーブコントロールに抑えられていることで、日本の長期金利は大変狭いレンジ内で似通った動きとなっている。
しかし、ここにきて米国、ドイツ、英国の長期金利の動きに連動性がなくなりつつある。
米国の長期金利は9月上旬に2%近辺まで低下していたが、ここからトレンドラインを形成し上昇基調となっている。市場では12月のFOMCでの年内3回目の利上げに不透明感をいだいていたが、FRB関係者の発言などから、利上げ観測が強まってきた。さらにFRB議長人事で、タカ派とされるテイラー氏の可能性が浮上したことでの米債安、つまり長期金利の上昇もあった。FRB議長人事はパウエル理事の昇進が有力視されているが、テイラー氏の副議長就任の可能性もある。いずれにしてもこれまでのFRBの政策が維持されるとみて良いと思われる。12月の利上げが意識されれば、2.6%あたりまでの長期金利の上昇があってもおかしくはない。
これに対してドイツの長期金利は9月上旬の0.3%付近からいったん0.5%近くに上昇後は、0.35%あたりから0.50%のレンジ内での上げ下げとなり、ここにきて再び0.4%割れとなっている。ECBは26日の理事会で量的緩和政策の縮小を決めた。今回の決定は大規模な緩和政策のペースを緩めるものであり、正常化に向けた一歩との見方ができなくはないが、FRBなどに比べると極めて慎重姿勢となっている。このECBの慎重さがドイツの長期金利の戻りが抑えられている要因となり、米長期金利とはやや異なった動きとなっている。さらにスペインの政治情勢も意識されているとみられ、リスク回避によるドイツ国債への買いとの動きも絡んでいよう。
そして英国の長期金利であるが、9月上旬の1%割れから米・独の長期金利と同じように上昇したものの、1.3%台でもみ合う格好となっている。ドイツの長期金利ほどの落ち込みはなく、高い水準で次のトレンドを探ろうとしている。11月2日のイングランド銀行のMPCでは10年ぶりの利上げが予想されているのが、この水準を維持している背景にあるとみられる。利上げが決定してもある程度は織り込み済みかもしれないが、問題はFRBのように正常化の歩みをここから始めるのかどうかである。つまりイングランド銀行はここから利上げを続けてくるのかどうか。それともECBのような慎重さを前面に出してくるのか。MPCの動向が英国の長期金利の動向を握っている。
結論としては、ここにきて米国とドイツ、英国の長期金利の動きにやや違いが出ているのはそれぞれの中央銀行のスタンスの違いが反映されていると言える。
編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2017年10月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。