この記事のポイント
- 小池新党が今回総選挙で大敗した原因として、生煮えの経済政策、「排除の理論」で踏み絵を踏ませた事、自ら出馬しなかった事等が挙げられている。
- しかし、根本敗因は安全保障政策で保守に舵を切った事自体にあり、保守に軸足を置きながらも左側にも顔を向けて翼を伸ばす「ヤヌス神」戦略が機能しなかった為である。
- これは、現下の日本では保守二大政党制が成り立たない事を意味するが、保守二大政党制でなければ深化、解決しない国政の課題が多く、その確立は引き続き模索されるべきだろう。
小池新党の大敗
小池新党の「希望の党」が今回総選挙で大敗した原因として、生煮えの経済政策、「排除の理論」で踏み絵を踏ませた事、自ら出馬しなかった事等が挙げられている。
だが、憲法や安全保障の問題を曖昧にして民進党と合併した場合、逆に「野合批判」が起こっただろうし、東京都知事を辞めて自ら衆院選に出馬すれば、「都政放り出し批判」が起こっただろうから、後者2つについてはタラレバ的批判の要素が強い。
確かに「排除発言」については、もっとソフトな「政策の一致は重要だと考えております」等の言い回しをし、希望の党で公認しなかった民進党議員に対しては刺客を送り込まずに緩い連携を図っておれば、立憲民主党を作った枝野幸男をあそこまでヒーローにせずに大敗は避けられたというのは当たっているだろう。小池の奏でるハーメルンの怪しい笛の音が、ある程度中道左よりの層を魔法にかけ、それらを引き連れて今回の総選挙はもう少し勝てたと思われる
しかし、根本敗因は安全保障政策で保守に舵を切った事自体にあり、保守に軸足を置きながらも左側にも顔を向けて翼を伸ばすという、ローマ神話の二つの顔を持つという「ヤヌス神」戦略が機能しなかった為である。
これまで小池は、都知事選、都議会選では、豊洲市場の環境問題等で左側を引き寄せて大勝している。これは左に軸足を置きながら、元々の出身である保守層からの一定の支持を受けるという戦略、同じ「ヤヌス神」でも、言わば「小池百合子その1」である。
保守二大政党制
今回の衆院選では、憲法改正、安全保障問題で安倍政権と基本的に同じスタンスを取り保守層を取り込むと同時に、「原発ゼロ」等を打ち出して左側を手当てしてある程度中道左よりの層の歩留まりを期待する「小池百合子その2」であり、一定の勝算はあっただろう。
しかし、安全保障政策で保守に舵を切った途端、マスコミが反旗を挙げ、連合の腰が引けて、小池新党は左右から挟撃に遭い大敗した。(小池のかつての師、小沢一郎なら安全保障政策を棚上げして、共産党を含む野党連合を組んで、自公政権と対決したはずだが、小池にはそこまでの節操のない行いは出来なかったようだ)
これは、現下の日本では、いわゆる保守二大政党制(安全保障等で、現実的な政策を掲げる二大政党制) が成り立たない事を意味する。しかし現下の自民党保守一強というのは、つまり保守の中に構造を持たない体制であり、それは政権交代が無いため単に森友・加計問題での周囲の忖度発生等の行政上の淀みを生むのみならず、例えば以下の様な解決せねばならない国策上の問題が弁証法的過程を経て前進しない事を意味する。
・良い既得権と悪い既得権の腑分けと、既得権解放後の合理的で現実的な回る仕組みの構築
・受け手を「受ける必要のない人化」し払う側に回って貰う事等の、持続可能な社会保障改革
・少子高齢化、AI・ロボット化、産業競争力確保等への税制、社会保障、規制、投資等の横断的対策
・例えば、米朝開戦と北の限定的核保有容認等の利害得失についての、タブーのない分析と議論
・日米同盟の深化と同時並行した、外交防衛に於ける(核武装のオプションを含む)主体性の確保
・進んでは上記主体性の、改正憲法へのビルトイン
今回、小池新党は自業自得も手伝い大敗し、現下の日本では時期尚早である事が示されたものの、自民党に代わり得る保守政党の確立は腰を据え引き続き模索されるべきだろう。
(敬称略)
佐藤 鴻全 政治外交ウォッチャー、ブロガー、会社員
ブログ:佐藤総研