悲しすぎた交通事故裁判

荘司 雅彦

ずいぶん昔、自動車運転過失致死が業務上過失致死と言われていた時代のことです。
国選で、自損事故で同乗者を死亡させてしまった案件を受けました。
事件記録を見た上で被告人本人と面談するとおおよそ次のようなことがわかりました。

被告人は20代後半の若者で、免許を取得して1年も経っていない「若葉マーク」でした。
ある日、小学校時代からの課外活動で一緒だった親友を載せてドライブに出かけました。
思いの外時間がかかったので、帰路は日が落ちて真っ暗になってしまいました。

狭くてくねった山道を走っていると、後続の車が煽るように接近したり、パッソングをしたりクラクションを鳴らしたり…後続車の前照灯がバックミラーから見えなくなるくらい接近されもしました。パニックになった被告人はハンドル操作を誤り自損事故を起こしました。

被告人は前科前歴もなく、課外活動でもリーダーを歴任し、事故当時はきちんとした勤め先で真面目に働いていました。
真面目な性格であるがゆえに、後続車に迷惑をかけてはならないと、慌ててパニックになりハンドル操作を誤ってしまったのです。

事情はともあれ、それまで家族ぐるみで付き合っていた被害者の親友の家族からも疎まれるようになりました。
もちろん任意保険から賠償金は出ましたが、大事な息子を突然亡くした被害者家族としてはやりきれない思いたっだのでしょう。

公判廷で涙を流しながら被告人である彼は、「私のほうが生き残ったのが悔やまれてなりません。彼(親友)の代わりに自分が死ぬべきだったのです」と語りました。

裁判官が最後に、「一番つらいのはあなた自身だと思います。亡くなった親友の分までしっかり生きることが一番の供養になることを忘れないでください」と慰めました。もちろん執行猶予判決が出ましたが、被告人本人は「いっそ刑務所に入れてもらった方が気持ちが楽になります」と言っていました。

おそらく後続車は、若葉マークを付けた車が慎重に走っているのに業を煮やして煽りまくったのでしょう。
事故後すぐにいなくなったので、後続車を運転していた人物が誰だったのかわかりません。

先般の東名高速道路の無謀運転事件の報道を見て、私は本事件を思い出しました。
あの事故で被害車両に追突したトラックは、間違いなく前方不注意です。しかし、高速道路を走った経験のある人ならわかると思いますが、追い越し車線に車が停車していることは(渋滞でもない限り)全くの想定外です。

100キロくらいでスムーズに流れていたとしたら、はたして冷静にブレーキ操作ができたのかどうか?
衝突したトラックの運転手も、生涯十字架を背負い込むことになるでしょう。

多くの人たちを不幸にしてしまった無謀運転手。
危険運転致死傷罪で起訴されましたが、最長でも15年の懲役刑です。
個人的には到底納得のいかない事件です。

荘司 雅彦
幻冬舎
2016-05-28

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年11月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。