「見えない増税」は2020年代に見える税になる

池田 信夫

きょうのVlogが尻切れトンボだったので、補足しておく。安倍首相も錯覚していると思うが、雇用が改善しても「デフレ脱却」できない大きな原因は、家計消費の分母になる可処分所得が下がっていることだ。次の図は実収入(勤労者の平均月収)と可処分所得(実収入から税・社会保険料を引いた手取り)を2000年を100とする指数であらわしたものだ(総務省家計調査)。

この時期に実収入は56万3000円から7.4%減り、可処分所得は47万4000円から9%減った。実収入の下がった主な原因は高齢化と非正規化だが、重要なのは非消費支出(所得税・住民税・社会保険料)が大きく増えたことだ。その最大の要因は社会保険料(年金・健康保険料)である。特に企業の負担する社会保険料は法人税の1.5倍にのぼる。

これは赤字法人でも払わなければならないので負担感が大きい。企業にとっては個人負担も企業負担も「人件費」なので、パートを厚生年金に加入させると、社会保険料の分だけ手取りの賃金が減る。厚生年金は企業が半分負担するというのも錯覚なのだ。これが人手不足なのに賃金が上がらない一つの原因である。

国民経済全体としては、社会保障支出は老人に分配されるのでゼロサムだが、年金はカネの足りない現役世代からカネの余っている老人に所得を逆分配している。資産の60%以上をもつ老人の消費性向は低いので、高齢化で消費が落ち込む。

さらにまったく見えない税が財政赤字(国債)だ。これは最近(消費増税とゼロ金利のおかげで)減っているので無視していいというのも錯覚だ。社会保障特別会計の赤字を一般会計の「社会保障関係費」で埋める異常な財政構造のおかげで、社会保障特別会計の隠れ借金が蓄積している。今のままだと2032年に年金積立金はゼロになり、2050年には年金会計は最大800兆円の債務超過になる。

総合研究開発機構の計算では、年金制度を2050年までもたせるには支給額を42%カットするか、保険料を35%引き上げる必要がある。さらに医療費も団塊の世代が後期高齢者になる2025年以降、激増するので、社会保険料を上げないと消費税率は30%以上になる。「見えない税」が見える税になる日は、2020年代には否応なくやってくるのだ。