孫正義の元秘書が語る「3流、2流、1流」の事業計画案?

尾藤 克之

画像は三木氏。『AbemaPrime』より

駅近ラーニング(仮称)は全国に英会話教室を展開している教育会社である。これまで、「駅近留学」をキャッチフレーズに英会話教室を展開してきたが、ここ数年の売上は鈍化している。新たな施策として、スマートフォンアプリを活用したオンライン英会話を検討している。社長が「そろそろ稼動させたい」と方針を打ち出してきた。

これは、アプリを利用して教室に通学しなくてもオンラインで英会話が学べるシステムになる。スクール型には通学しなければいけないという負荷が存在する。この負荷をオンラインで英会話で補完することでユーザーの満足度がアップすると考えている。アプリの開発は終了し、いつでも本格稼動が可能な状態にある。

半年前から新宿の教室でテストマーケティングを開始している。あなたは、この企画の担当に任命された。ミッションは、英会話教室のテコ入れである。数年は新規出店は控えて、鈍化していた各教室の売上増をはかりたいところだ。果たして、どのような事業計画を策定すれば、社長を納得させることができるだろうか。

3流の事業計画案とは

まず、新宿で実際に行われたデータを入手するため、アプリ履歴から、「年齢」「性別」「居住地」「開始時期」「金額」といった利用者の個人情報を洗い出した。アプリの履歴から基本情報を把握しようと考えたのである。ただしデータは、過去の事実を確認する数字であり現状を知ることしかできない。それ自体には大した意味は無い。

事業計画を策定するとき、このような基本情報は必要だが、これだけでは事業の成否を判断することはできない。しかし、計画案に落とす際、このような情報収集に注力しすぎている人を見かける。これでは、社長は首を縦にはふらない。

2流の事業計画案とは

次に、事業を展開するうえで「地域性」を考慮する。どの程度のニーズがあるか確認することにした。そこであなたは、地域別のユーザーを分析した。

全国を100%とした場合、東京20%、神奈川10%、埼玉10%、千葉10%、名古屋10%、大阪10%、福岡10%、その他20%だった。ここからわかるのは、大都市圏の比率が高いこと。とくに関東地区(東京、神奈川、埼玉、千葉)で50%を占有していることである。次に、「リアル店舗にどう展開すべきか?」を考えなくてはいけない。

そこであなたは、「店舗別売上予想」をはじき出した。新宿の教室は、アプリ導入以降、売上げが約30%増えていた。従来の新宿教室の月間売上は300万円。これがアプリ導入後は400万円になっていた。同じ比率のユーザーが獲得できるなら、月間売上は、従来の売上げに対して30%増やせばシミュレーションできる。

しかし、新宿の教室は帰宅途中のユーザーが多かった。他の地域の教室を調べたところ、自宅の最寄り駅でのユーザーが多い地域、日中稼動の多い地域、休日稼動のユーザーが多い地域など、かなりのバラつきが見られるようだ。社長にこの事実を伝えても「何をすればいいの?情報を精査してから持ってきて!」と言われるだけである。

1流の事業計画案とは

まずは、事業が判断できる内容に落とし込む必要がある。損益分岐点を検討する。アプリ導入前、新宿の教室は、スタッフの賃金や店舗の賃料、光熱費などの固定費が1カ月で200万円掛かっていた。コストを差し引いた利益が100万円である。

アプリ導入後は、従来のコスト+運用コスト30万円が増加していた。つまり、固定費は230万円となる。売上げは400万円だから、コストを差し引いた利益が170万円である。従来は利益が33.4%(売上300万円/コスト200万円)だった。アプリ導入後は42.5%(売上400万円/コスト230万円)に増加している。これを全店舗で算出する。

そしてシミュレーションができた。東京42.5%、神奈川50%、埼玉52.5%、千葉58.5%、名古屋48.5%、大阪43%、福岡50%。すべての地域の利益率はプラスとなり利益率がマイナスの教室も無かった。人員は数名のアドミを補充するのみで、大きな投資も必要ない。このように策定できれば、社長を納得させるイメージがつかないだろうか?

本書のもつ価値とは

今回、紹介するのは『孫社長のYESを10秒で連発した 瞬速プレゼン』(すばる舎)。 筆者の、三木雄信氏が、「世界一つかまりにくい上司」のもとで鍛えられたスキルになる。その上司の名は、ソフトバンクグループの孫正義社長である。

三木氏のもとには、社内から「この書類に孫社長のサインがほしい」「孫社長の了承をとってくれ」といった依頼が、毎日、山のように押し寄せる。これらの承認をもらうのが三木氏の役目になるが、孫社長をつかまえるのは容易ではない「孫社長の手が空いたら相談しよう」などと悠長なことを言っていたら永遠に了承は取れない。

緊急性が高い事案であれば、5秒でも10秒でもいいから孫社長をつかまえて、その場で即答してもらわなければ社内業務に支障をきたす。瞬時に相手に即答させ、説得するにはなにが必要なのか。本書にはそれらのノウハウがまとめられている。なお、本記事は参考著書に書かれているケースをヒントに筆者が作成したものである。

尾藤克之
コラムニスト

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