いよいよカウントダウンが始まった。セバスティアン・クルツ国民党党首の首相就任の時が迫ってきた。クルツ氏は世界で最も若い首相就任という記録を樹立することになる。
ドイツのハンブルクにあるオンライン統計市場調査機関「Statista」の世界の政治指導者の年齢調査によると、クルツ氏の生年月日は1986年8月27日で31歳になったばかりだ。それを追ってサンマリノ共和国のカラットー二・エンリコ氏で1985年5月18日、そして第3位に北朝鮮の独裁者・金正恩朝鮮労働党委員長で1984年1月8日となっている。
金正恩氏の場合、韓国情報機関筋によるもので、正式発表ではないので断言はできない。その上、金正恩氏の場合、父親・金正日総書記の死去、政権を継承しているので、クルツ氏より政権就任年齢は若いはずだ。ちなみに、今年5月に大統領に就任したばかりのフランスのエマニュエル・マクロン大統領(生年月日1977年12月21日)は現在39歳でベスト10入りしている。
10月15日の国民議会選後、クルツ党首が率いる国民党は第1党となり、第3党の極右政党「自由党」との間で連立交渉が進行中だ。交渉はテーマごとに20以上のグループに分け、各グループで両党の政策を検討する。例えば、安全問題、難民問題ばかりか、教育問題から科学研究分野の促進、スポーツの育成から女性の社会進出問題まで、国民党と自由党が専門家を派遣し、話し合う。想定外の障害が出てこない限り、クリスマス前にはクルツ新政権が発足し、世界最年少の首相がめでたく誕生するはずだ。
ところで、アルプスの小国オーストリアは変な国だ。同国の選挙権は16歳からで、世界で最も若い。そんな国から今回最年少の首相が登場してくるわけだ。クルツ氏の首相就任が実現すれば、オーストリアでは16歳の若者が投票でき、31歳で一国の政治の実質的最高指導者に就任できる国ということになる。換言すれば、オーストリアは“若者の天国”というわけだ。
同国では2007年6月、選挙権の年齢が18歳から16歳に、被選挙権は19歳から18歳にそれぞれ引き下げられた(例外は連邦大統領の被選挙権は35歳以上)。今年は、普通選挙法実施110年、「16歳選挙権」導入から10年目という歴史的節目に当たる。10月15日の国民議会選(下院、定数183)は改正法に基づいて実施された2回目の国政選挙だった。
ちなみに、ウィ―ン大学が今年8月末、連邦議会の要請を受けて「16歳から20歳の有権者の動向」を調査した報告書(パート1)をまとめた。それによると、「16歳選挙権」導入は「青少年の政治への関心を引き上げた」と指摘している。
例えば、2013年の調査(16歳から20歳までの309人を対象)では、「政治に関心があるか」という質問について、「非常にある」と「かなりある」を合わせると25%だったが、2017年の調査では60%に急増している。過去、4年間で政治への関心が急速に高まってきたことが分かる(「10年目迎えた『16歳選挙権』の検証」2017年10月6日参考)。
クルツ氏は、16歳選挙権の恩恵を受け、政治意識を向上させてきた若い世代の代表といえるわけだ。同氏の政治的手腕は外相として難民対策や難民・移民の統合政策で実証済みだが、問題は同氏が政治家以外の職業を知らないという点だ。ウィ―ン大学法学部に在籍中に国民党青年部リーダーとなり、大学を休学して国民党の若手指導者として歩んできたからだ。
「緑の党」出身で新党「リスト・ピルツ」を結成して今回、国民議会に議席を獲得したピルツ氏は、「クルツ氏は国民党の中で勉強してきた政治家だ。クルツ氏は政党の世界しか知らない指導者だ」と指摘し、クルツ氏の統治能力に疑問を呈している一人だ。
クルツ氏の連立パートナーはハインツ・クリスティアン・シュトラーヒェ党首が率いる極右政党「自由党」だ。欧州政界のオーストリアの新連立政権への目は厳しいだろう。31歳の新首相誕生は新しい政治的実験だ。若い世代にも少なからずの影響を与える。それだけに、クルツ氏の政権統治能力が一層、注目されるわけだ。
編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年11月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。