【映画評】IT/イット “それ”が見えたら、終わり。

渡 まち子

児童失踪事件が相次ぐ静かな田舎町。内気な少年ビルの弟も、大雨の日、道路に血痕を残して姿を消した。責任を感じて自分を責めるビルの前に、突然姿を現した“それ”を目撃して以来、ビルは恐怖に取りつかれてしまう。しかし“それ”を目撃したのは彼だけではなかった。ビルと秘密を共有することになった仲間たちは、力を合わせて“それ”に立ち向かうことを決意するが…。

子どもたちを狙う“それ”の恐怖を描くホラー映画「IT/イット “それ”が見えたら、終わり。」。原作はホラーの大家スティーブン・キングの小説で、田舎町に住む子どもたちの友情と冒険を描くことからホラー版「スタンド・バイ・ミー」の趣がある。実際、本作の恐怖“それ”は、子どもにしか見えず、心の闇が具現化したピエロ(の姿をした悪霊ペニーワイズ)は子どもしか狙わない。いじめの標的にされていたり、親から虐待を受けていたり、肉親を失っていたりと、何らかの心の傷から恐怖心を抱えた子どもだけが“それ”を見る。不気味なピエロは、大人にとっては何でもないものも恐怖の対象になる子ども時代特有の心理や弱みにつけ込み、子どもたちを捕食していくのだ。自分自身の深層心理とリンクした恐怖。これはかなり怖い。

一見のどかで平和な田舎町に潜む悪意や残虐性は、ホラー映画の定番だが、本作は、子どもが主人公だというのに、堂々のR15指定。排水溝から顔を出すトラウマ必至のペニーワイズの登場シーンのインパクトもさることながら、いじめや残酷シーンもかなりハードなもので、作り手の気合が伝わってくる。特に父から虐待を受けている少女ベバリーのシークエンスで登場する、血まみれの浴室のビジュアルは壮絶で息をのんだ。本作では、27年周期で現れる“それ”と闘う少年時代を描くが、壮年時代の闘いもまた映画化されるとのこと。力を合わせて恐怖に挑んだ負け犬のいじめられっ子、ルーザーズ・クラブのメンバーが、大人になってどう変化するのか、楽しみである。
【70点】
(原題「IT」)
(アメリカ/アンディ・ムスキエティ監督/ジェイデン・リーバハー、ビル・スカルスガルド、フィン・ウォルフハード、他)
(心の闇度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年11月7日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Facebookページから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。