リスクは中国の政権にある:『米中戦争前夜』

池田 信夫
グレアム・アリソン
ダイヤモンド社
★★★★☆

 

ツキジデスの罠という言葉は習近平が(否定的に)使って有名になったが、著者がハーバード大学で主宰した歴史研究プロジェクトの名前である。それは新興国が既存の覇権国を脅かした過去500年の16のケース(日米戦争を含む)を研究したもので、そのうち12は戦争に至った。

本書は中国の脅威を論じた本ではないが、最後にランド研究所のシミュレーションを参照し、同様の結論を出す:戦争の最終的な勝負を決めるのは軍事力だけではなく、総合的な国力の差である。それは経済力だけではなく、政治的統合や民族意識も重要だ。研究プロジェクトが16のケースから見出した12の法則は、次の通り:

  1. 国際機関などの「高い権威」があれば戦争は避けられる
  2. 主権国家という境界は大して役に立たない
  3. 悪賢い政治家が好ましい結果をもたらすことも多い
  4. 誰も望まない戦争が起こることも多い
  5. 文化的共通性は戦争を避ける上で有益だ
  6. 核兵器は戦争のルールを根本的に変えた
  7. 相互確証破壊(MAD)は超大国を相互依存させた
  8. 超大国の核戦争は現実的なオプションではない
  9. 核保有国は核戦争に備える必要がある
  10. 経済的な相互依存を強めることが戦争の確率を下げる
  11. 軍事同盟が戦争を誘発する場合もある
  12. 国内の政治・経済状況が決定的だ

現代の戦争は、第1次・第2次大戦のような「総力戦」とは違い、全国民を巻き込むものにはならないが、やはり経済力の差は決定的である。いま中国の民族意識は高まっているが、経済力にはかげりが見えている。共産党の政治的支配が崩れることは、長期的には不可避だろう。ランド研究所(というか米軍)が重点を置いて調査しているのも政権崩壊のリスクだ。

そのとき(中国の歴史でよくある)軍閥の内戦が起こるかもしれない。逆に朝鮮半島で米中の衝突が起こると、そこから政権が崩壊する可能性もある。中国共産党は、平時でも6500万人以上を殺したのだ。北朝鮮の軍事的冒険は、さらに大きな悲劇の序幕にすぎないのかもしれない。