プーチンがカタルーニャの独立問題に強い関心を持つ理由

白石 和幸

ロシア大統領府公式サイト(編集部)

ロシアがカタルーニャの独立する動きに強い関心を示しているというのはスペインでも良く報道されている。理由は、ロシアはEUを弱体化させることに繋がることには全て関心を寄せているからである。即ち、カタルーニャで独立する動きが活発になれば、EU自体の結束が弱まることは明白である。ロシアはそれを狙っているのだ。

「ロシアはEUの結束を強烈なサイバー攻撃によって内部から崩壊させようとしている」と、スペイン紙『El Pais』の取材に答えたのはロシアと国境を接し、ロシアから激しくサイバー攻撃を受けているエストニアの前大統領トーマス・ヘンドリックである。更に同氏は「混乱させることによって制度の合法性を喪失させ、EUやNATOの加盟国内で分離する動きが起きることは欧米にとって重大な脅威となる。それをロシアは追及している」とも述べた。

また、ロシア政府の広報紙のような役目をしている「R.T.」と「Sputnik」について言えば、カタルーニャの代表紙のひとつ『El Periódico de Cataluña』が8月から10月の間に前者は42の記事を掲載して、その一部には「EUがカタルーニャを独立国として承認するようになる」と報じたことを指摘した。また、後者は200の記事を掲載して、その多くは独立派を支持する報道になっているという。

筆者も、9月20日付の『Sputnik』で、住民投票実施の可能性を完全に否定し、抗争の状態がより誇大された表現になっている記事を見つけている。

同様に、11月8日付『El Pais』はEUの外務・安全保障本部がカタルーニャ危機を煽るロシアからのサイバー攻撃の急増と戦っていることを報じている。ロシアは最大10億ユーロ(1300億円)を投資して「R.T.」や「Sputnik」を介して33の言語を駆使して偽りの情報を提供していると同紙は指摘している。

さて、そのロシアの意向を受けたと思われる人物が10月23-24日にバルセロナを訪問している。南オセチアのディミトリー・メドエフ外相だ。

南オセチア(人口5万3000人)はグルジア共和国の中に位置している自治州で、グルジアからの侵攻を受けて以来、南オセチア共和国としてロシアの庇護のもとに存在している。2008年にロシアは南オセチアを独立国として承認した。

10月29日付『El País』によると、ロシアの広報媒体である「Sputnik」や「Regnum」は南オセチアがバルセロナに事務所を開設したと伝え、人道面や文化面での交流を発展させるのが目的だと報じたという。

しかし、同紙はそれは事務所ではなく、ひとり代表を駐在させたということだと同外相に直接確認したそうだ。

バルセロナには同様にロシアから国家として承認されているアブハジア共和国(人口24万人)の代表も駐在しているという。アブハジアもグルジアが自国領土として主張している地域である。

南オセチアとアブハジアがバルセロナに関心を示しているのはカタルーニャが置かれている事情が両国のそれと類似しているからだとしている。また、両国には1万人のロシア兵が駐屯している。

また、同外相はカタルーニャを訪問する前に、イタリアのロンバルディア州とヴェネト州を訪問したそうだ。両州もイタリア政府に対して自治権の拡大を要求している。

人口僅か5万人の南オセチア政府が同国と同じような状況に置かれているとしてイタリアそしてスペインで問題になっている自治州と接触して同国の代表を駐在させるということ事態が単なる文化交流の為だとは素直には受け入れられない。

レトニアのエドガー・リンケビッチ外相が「カタルーニャ問題は(EU)28か国の間で不和を生じさせる為にロシアが敢えて用意した床に落としたキャラメルのようなものだ」と発言している。

仮にカタルーニャが独立すれば、カタルーニャはNATOからも外されることになる。そこでロシアはカタルーニャに軍事協力を約束できる。その代わりにカタルーニャにある港をロシアも共有できるように了解を取る。同様に、ロシアからの投資も可能である。ロシアはこのような想定までしているのである。

ロシアのEUへの揺さぶりに、中国も便乗して来るのは明白だ。実際に、中国は既にバルセロナ港にハッチンソンと中国建設銀行が投資をしている。

一部専門家の間では、カタルーニャにロシアが侵入することを防ぐことが出来る手段があることを指摘している。スペインが天然ガスをアルジェリアから輸入しているが、そのガスパイプラインをカタルーニャを通してヨーロッパ大陸に設置することである。それによって、ヨーロッパはロシアから輸入している天然ガスの依存度を軽減させることが出来るというものである。

現在、ヨーロッパはロシアが産出する天然ガスの15%を輸入している。その依存度をアルジェリアからの輸入で軽減させることができる。それはロシアにとってGDPの後退を招くことになる。

ロシアはそれに対抗して、カタルーニャが独立すると、EU加盟国へのアルジェリアからのガスパイプラインを通さない用にカタルーニャ政府を説得し、代わりにロシアは100億ユーロ(1兆3000億円)を提供するかもしれない。

ロシアにとって地中海に面した都市を同盟地として手に入れたいのである。その意味で、カタルーニャの独立への動きはEUを弱体化させる為のロシアの最大の関心事なのであると同時に、バルセロナ港をロシアが頻繁に利用できるようにすることにがロシアの狙いでもある。