「シェアリングポリティクス」という新潮流 --- 蒔田 純

寄稿

民泊やライドシェア等の「シェアリングエコノミー」が拡大しつつある。この背景には「所有から共有へ」という社会の大きな流れがあるが、政治分野でもこの動きは出てきている。以下では政治における新潮流、「シェアリングポリティクス」について検討したい。

「シェアリングエコノミー」は、使われていない資産(遊休資産)を持つ貸し手とそれを使いたい借り手がウェブ上のプラットフォームでマッチングされる仕組みだが、「シェアリングポリティクス」では、使われていない権力(遊休権力)が選挙というプラットフォームを通じてシェアされる。使われていない権力とは「政治に反映されていない声」のことである。政治には多様な立場の声が反映されるべきだが、それに照らして適正に反映されていない声があるとすると、それは権力の中に使われていない部分があると考えるのである。

例えば、世の中の男女比は概ね5:5であるが、日本の国会では9:1程度である。この時、極めて大きな割合の女性の声が議席に反映されていないのであり、女性の声に基づいて行使されるべき権力が「使われていない」ことになる。この遊休権力を、本来これを持つべき「女性」というアクターとシェアするのが、シェアリングポリティクスである。

いくつか具体例を挙げたい。まずはナイトメイヤー(夜の市長)である。これはクラブ等の夜の経済(ナイトタイムエコノミー)に関して行政に提言する役職であり、欧米で広まりつつある。例えばアムステルダムでは市民のオンライン投票を踏まえて選考委員会が選出したナイトメイヤーが市と業界から資金提供を受けながら関連施策に関する双方の窓口として機能している。夜の街は重要な観光資源であり、新たな文化が生まれる源泉でもあるが、行政からは規制の対象になりがちである。言わば、ナイトタイムエコノミ―を適切に振興するという「権力」が使われていないのであり、これを行政とシェアする試みがナイトメイヤーなのである。

ヤングメイヤー(若者市長)も代表例である。これは英国の自治体で導入されており、13~18歳の青年が投票によって自分たちの中から選出する。ヤングメイヤーは市長に対して政策提言を行い、市の特定予算の執行権が与えられる。選挙権を得る前の若者は政治に特に声を届けにくい層であり、若者目線の施策を行うという「使われていない権力」が市当局とヤングメイヤーでシェアされているのである。

このような「シェアリングポリティクス」の事例は日本においても見つけることができる。例えば山形県遊佐町は「少年町長・少年議会」という制度を2003年より設けている。これは、「有権者」である町在住・在学の中高生が、自分たちの中から、少年町長1名、少年議員10名を選挙によって選出するというものである。少年町長は少年議会で承認された政策に関して遊佐町長に提言を行い、それが採用されれば町の正規の政策として予算化される。少年町長は遊佐町長より特定予算の執行権を与えられており、例えば2015年4月~12月には45万円が割り当てられている。

また、2016年4月には東京都渋谷区が「ナイトアンバサダー(夜の観光大使)」を設置し、初代アンバサダーにはヒップホップアーティストのZeebra氏が任命された。「ナイトアンバサダー」は「ナイトメイヤー」とは異なり、あくまで地元観光協会の任命による観光大使として渋谷区の夜の魅力の発信等を担うものだが、一方で、「夜の街」に特化した初の公的な試みであること、任命されたZeebra氏は昨年6月の改正風営法施行で実現したクラブの深夜営業解禁を主導してきた中心人物の一人であること等から、ナイトタイムエコノミーに関する政策提言を含めた、「ナイトメイヤー」に近い役割を担うことができるのではないかと期待されている。実際、Zeebra氏は昨年6月にアムステルダムで開催された「ナイトメイヤー・サミット」に日本代表として参加しており、風営法改正や渋谷の夜の魅力について基調講演を行っている。

「シェアリングポリティクス」は、「所有から共有へ」という近年における人々の価値観の変化に伴う動きの中の一つであり、「シェアリングエコノミー」同様、今後ますます拡大していくものと考えられる。社会の中にあまた存在する「声」をいかにして反映させるか、は政治が抱える普遍的な課題であり、その現代的な解の一つとして、このような潮流を位置づけることができる。

今後、日本においても「シェアリングポリティクス」の動きは確実に広がっていくと想定される。LGBT、アイヌ、婚外子等、現在必ずしも政治に反映されていない声を持つ層は我が国にも多数存在する。多様化・複雑化する社会にあって、限られた人間のみが公的な課題解決を行うのはそもそも無理があり、様々な分野の様々な意見をいかに取り込んでいくかが、今後の政治における基礎となる。現代において政治は、「与えられた権力を行使する主体」から「多様なアクター間にシェアされた権力を総合的にマネージする主体」に脱皮することが求められているのだと言えよう。

蒔田 純(まきた・じゅん)法政大学大学院公共政策研究科 兼任講師
1977年生。政策研究大学院大学博士課程修了。博士(政策研究)。衆議院議員政策秘書、総務大臣秘書官、筑波大研究員等を経て、現在は上記の他、新経済連盟政策スタッフ、北海道厚沢部町アドバイザー等を務める。