トランプ・アジア歴訪後のアジア太平洋地域の真の課題

渡瀬 裕哉

トランプ大統領に日本の外交安全保障戦略を飲ませた安倍政権の大成果

トランプ大統領のアジア歴訪は東アジアの歴史を大きく変えることになるでしょう。特に安倍政権が常に主張してきた「自由で開かれたインド太平洋戦略」についてトランプ大統領が合意したことの意義は極めて大きいものです。

トランプ政権のアジア太平洋地域に関する布陣はいまだ脆弱であり、10月27日に漸くアジア太平洋の安全保障問題を担当する国防次官補にランドール・シュライバー元国務副次官補を指名することが決まった段階です。日本側は米国側の外交人事の空白をうまく利用し、自らが提唱するビジョンを米国に飲ませたという点で大成果を挙げたものと想定されます。

日本政府は「トランプの東アジア政策」を買いたたけ!(拙稿、8月31日)

また、日本のTPP11合意に向けた努力や日欧EPA大枠合意は自由貿易・投資における日本側の主導権を発揮するものであり、確実にトランプ政権の経済政策に影響を与えていくことになるでしょう。北朝鮮に対する軍事的強硬策によるエスカレーションによる偶発的な戦闘開始は懸念されるものの、米国の実質的な対中包囲網の形成へのコミットは概ね安倍政権にとって都合が良い展開になっていることは確かです。

実質を持った「自由で開かれたインド太平洋」を実現させるために

トランプ大統領はベトナムで行われたAPECでも「自由で開かれたインド太平洋」「多様な文化を持つ国々が自由と平和を共有することの重要性」にも言及しました。同政権が主張する貿易不均衡の問題にも言及したものの、東アジア・東南アジア・インド洋に対する姿勢に変化が表れているように見受けられます。

しかし、少し考えればわかるように、そもそもAPEC開催国であるベトナムは共産党一党による独裁国であり、対中包囲網という観点だけでなく、本当の意味で自由で開かれたインド太平洋地域を実現することを念頭に置くと、同ビジョンは極めてハードルが高いことは言うまでもありません。

この地域を自由で開かれた状態に真に近づけていくために、本ビジョンを米国とともに主導する私たち日本人自体が自由や平和とは何か、ということについて再認識する必要があるものと思います。

トランプ大統領が所属する共和党が持つ自由と平和の考え方を学ぶべき

トランプ大統領は米国共和党が擁立した大統領であり、その根底に流れる思想について日本側も理解を深めるべきだと考えます。

通常の日本人とはほぼ真逆の考え方に立脚した共和党の思考法について、多くの日本人は無理解であり、米国の情報については民主党側のリベラルな勢力のバイアスがかかったものが入ってくるばかりです。必ずしも米国側の思想を100%見習うべきだとは言わないものの、少なくとも彼らが主張する「開かれた自由」の意味を知ることは大事だと思います。

筆者は11月17日(金)にJapan-US Innovation Summit 2017 というイベントを通じ、東京で共和党関係者(メディア・シンクタンク・圧力団体・大学関係者)を招いて直接その考え方を学ぶ機会を作りましたが、今後日本でも同様のイベントが増えていくことが望ましいでしょう。

日米は近くて遠い国であり、お互いに知っているようで知らないことが多くある国です。今後、両者間の違いを理解しながら、「自由」とは何か、ということについて認識を深めていくことが更に大事になっていくでしょう。

トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体
渡瀬裕哉
祥伝社
2017-04-01

 

 

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