【映画評】ロダン カミーユと永遠のアトリエ

渡 まち子
提供:松竹=コムストック・グループ

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1880年、彫刻家オーギュスト・ロダンは、国からの受注で大作“地獄の門”の制作に取り掛かっていた。この時期に、ロダンは弟子入りを願う若い女性カミーユ・クローデルと出会う。才能あふれるカミーユにロダンは魅せられ、自分の助手として雇い、すぐに激しく愛し合う関係になる。ロダンには内妻ローズがいたが、10年に渡って情熱的に愛し合ったロダンとカミーユは、互いを尊敬しつつも、才能ある芸術家同士として複雑な関係を築くことになる。創作活動にのめり込むロダンだったが、彼が作る作品は賛否両論、時には酷評されることに。やがて二人の関係にも変化が訪れる…。

近代彫刻の父オーギュスト・ロダン没後100年を記念して作られた伝記映画「ロダン カミーユと永遠のアトリエ」。ロダン美術館全面協力のもとに描かれているが、偉大なロダンを美化することなく、芸術家としての苦悩や矛盾をはらんだ人間性を静かなタッチで描写している。中心になるのはロダンだが、もう一人の主人公と言えるのが、弟子で愛人だったカミーユ・クローデルだ。この女性彫刻家に関してはイザベル・アジャーニとジェラール・ドパルデューという仏映画界の2大スターが共演した「カミーユ・クローデル」がある。

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ロダンは40歳を超えてようやく仕事が安定してきた遅咲きの天才。なかなか世間に認めてもらえない悔しさ、もどかしさを誰よりも知っていて、そのためか仕事への執着、芸術への妥協のない姿勢は尋常ではない。一方で、女性関係は奔放かつ優柔不断で、人間的にも誠実とは言い難い面も。内妻と別れられないロダンは結局カミーユとの悲劇的な破局を迎えるのだが、女性が社会で活躍するのが難しい時代、ロダンという偉大な才能に嫉妬しながら大きく影響される彼女に対して、最終的に「芸術家としての君は脅威。君にはロダンは必要ない」と言う。それは、愛人関係の終焉を意味しながらも、同時に、カミーユを解放する一言にも聞こえる。ロダンの複雑な人間性を丁寧に追った伝記映画だが、ジャック・ドワイヨン監督の演出は、いささか真面目すぎて、起伏に乏しいのが残念。巨匠ロダンは、芸術に人生を捧げ、愛に苦悩し、それを作品という形で昇華した孤独な天才だった。名作の制作秘話も数多く登場する本作を見れば、日本でも見ることができる彼の代表作を、また別の視点から鑑賞できるはずだ。
【60点】
(原題「RODIN」)
(フランス/ジャック・ドワイヨン監督/ヴァンサン・ランドン、イジア・イジュラン、セヴリーヌ・カネル 、他)
(苦悩度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年11月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。