人生において1ミリの優劣を論じることは愚の骨頂である

写真奥が本田氏、手前は小倉氏(オフィスにて)

最近、自己啓発でありながらも人生訓が学べる書籍が増えている。今回紹介するのは、『はしゃぎながら夢をかなえる世界一簡単な法』(SBクリエイティブ)。著者は、マーケッターの本田晃一(以下、本田氏)。編集者はSBクリエイティブの小倉碧氏。ある程度、世の中の理不尽さを理解している人のほうが気づきがあるだろう。

あなたは周囲からどのような評価をされているだろうか。たとえば「真面目」だと言われていた人は、いまの目盛りを1ミリでも上にしようと頑張っていたことになる。「こつこつ真面目」に頑張っていたということだろう。ところが、1ミリ下がったら落ち込む。こんな人が少なくない。一喜一憂も悪くないが翻弄され過ぎると息苦しくなる。

ファーブルが昆虫を観察するように物事を見る

――1ミリ上がったら喜んで、下がったら落ち込む。「こつこつ真面目」ではない人からすれば、「くだらないこと」に見えてしまう。本田氏は、「ものさし」を横向きにして、上下ではない見る方法をすすめている。「ファーブル昆虫記」と呼んでいるそうだ。

「ファーブル博士は、昆虫に優劣をつけません。ただ分類して、客観的に観察するだけです。カマキリがコオロギを食べていても、『カマキリがコオロギを食べている!ひどい』とは言いません。『そういう虫なんだ』と思うだけです。『ものさし』を横向きにすれば、優劣がなくなります。要領よく生きることのコツが見えてくるはずです。」(本田氏)

「別にバカにしているわけじゃありませんよ。その人のキャラクターを尊重しているんです。そういう生き物、そういうキャラクターなんだ、という目で見ると、物事を優劣で見たり、その優劣に自分を合わせて、翻弄されなくなります。」(同)

――期末の査定がおこなわれた。Aさんは営業目標をクリアして来年度の昇進とボーナス満額を手にした。Yさんは目標に1万円届かなかった。昇進は見送られ、ボーナスは基本額のみが支給された。社内でも「Aさんはすごい人」という評価。社内でマドンナと評判の「百合子さん」もAさんを羨望の眼差しで見ている。Yさんはやり切れない。

1週間後、Yさんは自信喪失となり退職を決意した。「もうこんな会社には居られない」「百合子さんにも嫌われた」。しかし考えてもらいたい。査定では、わずかの差で優劣がついたが、人生の優劣が決まったわけではない。また、Aさんは昇進によって「人生の成功」を手にしたわけでもない。社内という場の、ものさしでの比較でしかない。

「ものさしに翻弄されなくなれば、心の中がとても平穏になってくるんです。そして、本当は自分がどうしたかったのか、どうなりたいのか、『ものさし』に左右されないセルフイメージが作られるようになります。もしも、縦向きの『ものさし』があらわれて、上下で計ろうとし始めたらこんなふうに言いきかせてみてください。」(本田氏)

「これは、『縦向きじゃなくて、横向きだ』『上下じゃなくて、分類だ』『ファーブル博士のように観察しよう』。見方を変えることで解釈もかわります。」(同)

他人のものさしの違いを部活で考える

――「ものさし」を横にするのは、優劣の価値観をなくすことに効果的であることは説明した。しかし、自分の中に形成されている「ものさし」を変えるのは簡単ではない。

「例えば、親子の関係で考えて見ましょう。子は親の夢や期待に応えようと頑張ります。反逆児は親の期待にわざと反抗することで、親の関心や愛情をこちらに向けようとします。だから、人は自分にとって心地よくないのに、『ものさし』の両極端、つまり親が喜ぶどころか、その真逆のところで頑張ってしまいがちなのです。」(本田氏)

「無意識のうちに『自分が心地よい目盛り』とは違うところを選んでしまいがちなんですね。これは、とてもやっかいなことなんですけど、自分の心地よい場所を聞かれると、『親の気に入る場所か、そのまったく別の場所』を答えてしまいます。だから、表面的にはわかりにくいんです。自分でもなかなか気づけない。」(同)

――実は、人との違いを「部活」と考えることでわかりやすく理解できる。学生時代に、部活が違う人のことを否定する人はいない。スポーツ強豪校で「野球部が上だ」「いやサッカー部だ」「いやいや相撲部だ」みたいな会話があるかもしれない。しかし、通常は「お前の部活楽しそうだな」「そっちも楽しそうだね」といった尊重の機運が生まれる。

「誰もがみんなそれぞれの『自分の人生部長』です。『俺、演劇やらないけど、演劇部部長ってすげーじゃん!』という感じで付き合うと、気持ちがラクになります。人生では、誰もが『ものさし』に縛られることから逃れることはできません。しかし、解釈の仕方で新しい価値観を受け入れらるようになるはずです。」(同)

本書は、この記事で紹介したようなわかりやすいケースが紹介されている。自分自身に謙虚になり、努力できる人にとっては正しい道筋を見つけるヒントになるだろう。

参考書籍
はしゃぎながら夢をかなえる世界一簡単な法』(SBクリエイティブ)

尾藤克之
コラムニスト